とうらぶ 江雪 | ナノ



▼ 9

 一同、はやる気持ちを抑えて静かに全員が集まるのを待っていた。
 広間はどんなに戸を開けても血の臭いが篭っていた。
「帰ったぞ!」と関白宣言を決めた亭主のような言い方は和泉守。
「ごめんなさい。やられてしまいました……不甲斐ない。えへへっ」
 堀川は和泉守に抱えられるように支えられながら広間へとやってくる。片足を引きずっていた。上座に座る長谷部へ申し訳なさそうな苦笑を向ける堀川は、空笑いをした後に眉間へ皺を寄せる。臓物が軋んだ。
「いいんだよ、国広。黙ってろ」
 切りっぱなしの言葉は柔らかい響きを持っていた。堀川を座らせて、その隣へと座る和泉守。ぐったりと寄りかかってくる堀川にチラと心配な目を向けてから、正面の長谷部を見る。審神者代理として本丸を仕切る長谷部は疲れ切った青ざめた顔をしながら、しかし弱みを見せるまいと背筋をしゃんと伸ばしている。
「長谷部。さっきの出陣で宗三もやられた」
「なにっ!?」
 長谷部が立ち上がろうとしたところ、和泉守は片手を上げて制する。
「折れちゃいねえさ。看病に歌仙をつけといたから安心しろ。静かにしといてやれ」
「……そうか」
 腹からため息を吐き出すと、胃がキリキリと痛む。長谷部の眉間の皺が深くなった。
 和泉守もまた、ため息をつく。こういうときは機嫌の悪さから失言をすることが多い。堀川は「兼さん」と彼だけに聞こえるよう小さな声で諌めた。それがやけに心細く聞こえて、声を張る気力すら出なかった。
「わかってらぁ。審神者が不在の間の出陣を決めたのは宗三だけどよ、あいつだって政府の詮索を逃れるために提案したことだ。俺たちも賛成した。今更責めるつもりはねえよ」
 んっふふ、と、場にそぐわないひっそりとした笑い声はいやでも耳についた。
 長谷部の横についた青江のジャージの肩には糞がついたままだった。広間が静かなことを確認すると、青江はゆっくり立ち上がった。こんな状況にも関わらず悠長にニマニマしているが、普段と変わらない姿に安心するのも確かだ。
「みんな集まったね。審神者と江雪……あと、前田と伝書鳩の居場所がわかったよ」
 手紙を広げて簡単に経緯と掻い摘んだ内容の説明をする。
「僕らとしては三ヶ月ほど過ぎているわけだけど、この文面から察するに彼らとしてはまだ一日もたっていないみたいだね。気の迷い、というやつかな。迷うものさ。人間も刀も、恋ってやつもね。あまり責めないであげてね」
 唐突な失踪。手入れのできない仲間たち。庇う気持ちはあれども、我慢の限界が近づくに連れて無責任ではないかとの想いも出てくるだろう。しかしそれを口に出せば争いや仲間割れになることも容易く想像できる。
 険しい目を向けてくる和泉守へ、青江は口を猫のように丸めて笑いかける。
「君はもちろん責めないよね? なんせ……ね? わかってるね?」
 堀川は諦めて目を閉じた。長谷部は小声で「馬鹿!」と、手を伸ばして強く青江の足を叩いた。
 以前、和泉守は審神者にふられていた。彼らは酒の肴に散々いじり倒したが、事態が起こってからは流石に誰も触れられずにいた。
 そんな空気の中、青江はからかい半分のように禁句となりつつある話題へ斬り込んでいったのだ。
 口をへの形に曲げた和泉守は、ふんと鼻から息を吐いた。
「俺はそんな小せえ男じゃねえよ」
 ホッ、と息を吐き出したのは誰か。
 青江はまた、んっふふ、と笑った。
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