面倒な関わりを断っている僕だけど、情報通ではある。むしろ並盛地区の大まかな情報は全て僕のところに集まってくる。定例の行事から運営資金、いじめから噂までとジャンルは多彩だ。
好き気ままにやっていると思われがちだが…やっぱりそれは否定しないが、しっかりと『風紀委員』の仕事はこなしている。方々に張り巡らせた風紀委員(駒、と読む。)の情報を本に調査。事実を発見したら真人間のレールに戻ってもらうために即成敗。
並盛の治安を守っているのは使えない警察じゃなくて僕だ。暗躍に近いし天誅の手段は問わないから怖がられているけど。実際に裏で生きているのは認めよう。どれもこれも、普通では無理な事を通す為にやっているのだし。

「委員長。」

草壁が神妙な顔をして応接室に入ってきた。

「なんだい、また何かあったの?」
「いえ、少しお話が…」
「ふぅん、何。」

行事の一覧表と細かい予定のプリントを照らし合わせる。あ、これ間違ってる。赤線を引いた。

「…委員長と、篠塚沙耶についてなのですが。」

草壁は迷うようなタメをつける。
プリントの内容から頭を切り替えてペンを置くが、顔を向ける気にはならない。

「生徒達は好奇の目でお二人を見ています。」

納得するには少し難しい原因で起こった火事。家は焼けたのに未だ学校に通い続ける沙耶。誰が言ったわけでもないのに流出した、僕と沙耶が同棲している情報。
お茶の間…一般生徒の想像力を掻き立てるには十分過ぎる材料だ。実際にやましい事もあるし…法律的に。
草壁はその辺りをなんとなく理解しているのだろう。生徒達の気持ちも。

「…委員長は、確か一人暮らしでしたよね?」
「そうだけど。」
「中学生とは言え…若い男女が二人きりで生活するのはどうかと…何がなくても、風紀委員長として示しがつかないのでは…」

言うに難しい事だから、草壁は忍び足で歩くように発言する。視線がそれた気配を感じた。性的な話はなかなか直視して話せないものなのかな…草壁は硬派だし。

「それで終わり?」

あえて普段より飄々とした態度をとる。

「風紀委員長だから怖いのか、僕だから怖いのか。」
「委員長…」
「そんな事、火を見るより明らかだよね。正解は後者。風紀委員長はただの肩書きに過ぎない。」

僕の発言にムッときたのか、草壁は黙って突っかかりのあるため息をついた。

「…委員長は我々、名もない風紀委員についてどのようにお思いなのでしょうか。」

毒の含まれた言葉。こんなものだな、と僕は内心で苦笑を洩らした。

「凄く助かっているよ。仕事が円滑に運ぶのも君達がいるからこそだ。」

駒とか番犬とか便利ツールくらいにしか思ってないけどね。だから使えるのしかいらない。
それにしても、もっと言いようがあった気がするな…なんだか群れてるような感じがして、自分の発言ながら気持ち悪い。いるからこそ、ってなんだい、全く。

「そう…ですか。」

しかし、自己嫌悪の甲斐もあって草壁は一応納得したようだ。やれやれ。
ここで草壁を丸め込んだからと言って、生徒達の好奇心がどうにかなるはずもないんだけど。下の風紀委員に対しての威信云々なのかな…威光と信頼か。それは僕のキャラから生まれるものじゃなくて、僕の力から生まれてるのだと思うけど。

「…それから、もう一つお話が。」
「今度はなんだい?」
「篠塚沙耶が、いじめられる傾向にあるようです。」
「そう。」

再び備品の赤鉛筆を持ち、プリントに目を通す。

「…心配にならないのですか?」

意外そうな草壁の声。

「予想の範疇さ。」
「なら、何故…?」
「今阻止しに行ったら、沙耶と僕の間柄が疑いから確信に変わるよ。」

草壁は黙ってしまった。こう言われたら反論のしようがないだろう。駆け引きみたいな事をする羽目になるとは思ってなかったけどね。
やはり力とは偉大な武器だ。そして人とは面倒なものだな。

「委員長が何をお考えか、私には図りかねます…」

ポツリと草壁が呟いた。僕の考えが駒ごときに読まれてたまるか。
僕と同じステージに立てるヤツしか、僕の考えや気持ちを理解できないだろう。だから、僕はいつまで経っても孤独だと思う。それでも良い。こんな馴れ合いは嫌いだ。

「この資料間違い多すぎ。作ったヤツに文句つけといて。」

聞こえない振りをして、添削し終わったプリントを草壁に渡す。

「…はい。」

一瞬の間の後、草壁はプリントの束を受け取った。

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