並盛中学校に入学して、早くも二回目の迎春。
卒業は今年の三月。三学期が始まった一月の現在、数字的にはもう二ヵ月後に迫っている。実質的には一ヶ月ほどだけど。

まだ寒い朝。学校に来るたび、校門をくぐるたびに、そこはことない郷愁のような感慨に耽ってしまう。この光景はいつか薄れてしまうのだろうか、と。
そして、廊下などで彼を見かけるたびに思う。一体、彼は何者なのだろうか、と。

彼とは雲雀恭弥。繊細でややきつい美貌を持っていて、身長はずば抜けて高いわけではないが、スポーツ万能、頭脳明晰。背筋はピンと伸ばしていて、かつ猫のようなしなやかさも伴っている。群れることを嫌い、応接室を根城に活動していた。
役職は風紀委員長。けど侮るなかれ。この町では並中風紀委員の名が何よりも恐ろしいのだ。先生? 警察? 政治家? 国家すら従えているのではないだろうかと思えるほどの権力。
だってそうでしょう。いくら人を殴っても咎められることはない。いくら人を殺しても裁かれることはない。いくら人を抹消しても…と、これはただの推測などだけど。

卒業するにあたって、私にはただ一つの心残りがあった。
雲雀恭弥の正体。
私が入学した当時から並盛の首領であった彼は、一体何歳なのだろうか。落ち着いている彼は、年上にも年下にも見えるときがある。
いや、年齢もそうだが…上手な言葉が見つからない。

私のクラスには篠塚沙耶という子がいた。過去形なのは、現在の彼女は行方不明だからだ。
篠塚さんは綺麗な子だった。しかし、それ以上に暗かった。社交性は皆無だし、せっかく綺麗な声なのに喋るときはボソボソと小声だった。いつも教室の隅で縮こまっていた。
面白いことに、それでも男子からの広く浅い人気はあった。観賞用の人気とでも言おうか。
それと同時に、女子からの評判は酷いものだった。
当の篠塚さん本人は両方を拒絶していたが。
他者の拒絶も問題ありだが…彼女はきっかけを作ってしまった。いじめられるきっかけを。

去年の秋頃だ。篠塚さんの家が不審火で全焼した。表向きでは寝タバコによる発火と聞いたが…。ご両親は…ここも不自然な点を噂で聞くのだが…亡くなってしまい、篠塚さんだけが生き残った。篠塚さんの家庭にも事情があったらしく、彼女が火を点けたのではないか…とささやかれている。
そして。
どういうワケだか、篠塚さんは雲雀恭弥…雲雀さんと同性を始めた。雲雀さんが引き取ったそうだ。
接点はわからない。家事の少し前、篠塚さんを応接室の前で見かけたとの噂はあった。
「篠塚さんが雲雀さんをたぶらかして、都合よくコトを運ばせた。」
そんな噂があちこちに立った。主に女の子がよく話していた。
雲雀さんは怖い人だけど、身の程をわきまえず憧れを抱く女の子達からの支持は厚かった。美形だし頭もいいしスポーツもできる…モテの三大条件が揃っているから。更に数え切れないほどの表層的な格好良さを持っている…深いところは知らない。
要するに、嫉妬だ。嫉妬と、自業自得によって篠塚さんはいじめられていた。私は止める術も理由もなく、ただ見守っていた。
いじめもエスカレートしてきたそんなある日、篠塚さんはぱったりと学校に来なくなった。しばらくすると、失踪の旨が先生から伝えられた。
「邪魔になった篠塚さんを雲雀さんが…?」
そんな噂が流れ出した。以降、その話には誰も触れず、雲雀さんは恐怖の対象でしかなくなった。

そんなワケで、私は雲雀さんにとてつもない興味を抱いている。
下世話な話だが、この話の顛末を知りたいのだ。
卒業してしまえばきっと知ることができない。
チャンスは今しかないのだ。
冬休みに悶々とし続け…そうして今日、全てをすっきりさせてしまおうと思う。

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