あれから幾分か時間が経った。まだ日付は変わってないけど。
沙耶は途中で気を失ってしまい、仕方なくベッドに運んでやる。後は知らない。翌朝目が覚めてあまりの体調の悪さと不快感に後悔したとしても、僕の体じゃないし。
僕は僕でぼーっとしている。ああ、なんか汗かいた。流してこよう。シャワー浴びたら気分も変わるかな…変わる訳ないか。僕らの関係が機嫌とリンクしているからね。事実が変わらない限り、僕の不機嫌はどうにもならなさそうだ。
タイルの冷たさが唯一の現実的感覚のような気がした。シャワーの温度設定が勢いでブレて冷水が吐き出される。冷たい。
死ね。クソ、もうなんでもいいから死ね、ともかく死ね、誰でもいいから死ね、みんな死ね。
水が温かくなっても煮えたぎる感情は止まるところを知らない。まるで落ち着くきっかけを失ったかのように。
シャワーを止めた。貼りついた前髪から水が滴り落ちる。やっぱり死ね。
僕は誰に向ける訳でもなく、ひたすら悪態をついた。

翌日、僕はいつも通りに出勤…ではなく登校。沙耶はまだ眠っている。どうせ表に出られないだろうし、起きられないだろうし。
リビングの机に「学校に休みの連絡済」と書いたメモを置いといたから大丈夫だろう。
ふぁ、とあくびをする。寝不足ではないのだが。あくびが出やすい体質、そういう事にしておこう。
朝の清涼な空気が体中に染み渡る。頭が冴えてきた。学校という場所に向かう…昨日の事は夢か幻か…否、現実。あの日から、リアルはなおも続いている。
前方に生徒の後ろ姿が見えた。頭を切り替える。もしこれが僕の今の弱みなら…付け込まれる訳にはいかない。

昼休みは校舎内の見回り。たまに同族狩り…いわゆるイジメや、弱肉強食…いわゆる恐喝があったりする。僕がしっかり幅を効かせておかないと、並盛の風紀は荒れるばかりだ。

「あー、せいせいするわーっ!」

通りかかった教室から聞こえた、けたたましい女子の笑い声に眉をひそめる。しかし、耳に入る内容に足が止まった。

「親殺しの淫乱女となんか一緒の教室にいられないっつーの!」
「ねーっ!」

…沙耶か。ということは、あの群れがイジメの主犯。
沙耶の武器が性別という部分は僕も同感だが、それに僕が騙されているニュアンスを含む事が不快だ。俗世の物差しで僕を計らないでもらいたい。沙耶は別として。

「ねえ、君達。」

僕の声に怯えを含んだ驚きの視線が一気に集まる。

「ひっ…ヒバリさん…!!」

引きつった声が耳障りだ。だけど妙に可笑しい…無様で。つり上がる口元を隠さずに僕は続けた。

「そんなに言うなら、さっさと殺せばいいじゃないか。」
「っ…!?」

なぜそんな事を言うのか解らない、と目を丸くする群れ。彼女達の中では、僕はただのバカな男なのだろうか。すごく不愉快だ。これだから、人間は。

「もう来ないんじゃない、彼女。…ま、どうでもいいけど。」

ニヤリと笑って僕は教室を後にした。少しはウサも晴れた…のだろうか。
…あ、『群れたら咬み殺す』って言い忘れた。いいか、もう。なんかどうでもいいや。



「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -