■ 書き途中、長谷部と少年審神者が将棋をする話

将棋盤を間に挟み、二人は向かい合っていた。

一人は少年。気の強さが大きな目に現れているが、全体を見れば愛嬌のある大型犬のようにおっとりとした顔立ちだ。まだ骨格が完成していない成長途中の肩を怒らせて、筋肉のつきがわるい腕を組んでいる。

少年は、この本丸の審神者である。

対するは近侍の長谷部だ。肉体年齢よりもやや老けて見られる渋い顔へ静かな笑みを浮かべている。審神者を見る目はまるで親のそれ。

手袋を外した指先が、パチンと軽快な音を立てて角を置く。

「おい、長谷部。接待するな。本気でやれ」

「いやいや、滅相もない。さすが主。攻め入る隙もない見事な一手でした」

沈黙。ただただ睨みつける。迫力のない子供の視線は癇癪を起こしているようにしか見えない。

長谷部は肩を竦めた。

「主には敵わないな。では、改めてまして……王手」

角の位置を変える。

審神者は頷いた。そして、唸った。長考――の末の、敗北。

「……参りました」

悔しそうに唇をへの形に曲げて、審神者は勢いよくぴょこりと頭を下げる。まるで茶運び人形のような動作が微笑ましく、我慢しきれず長谷部は口先から小さな笑みを零してしまった。

「笑うでないぞ!長谷部!」

カッと顔を赤くする審神者。声変わりの済んでいない柔らかなボーイソプラノが響いて、庭の鳥がバサバサと飛び去った。

んん、と咳払いの後、長谷部はしゃんと背筋を伸ばし、慇懃無礼な礼を一つ。

「申し訳ございません。出過ぎた真似を。仕置きならなんなりと」

「ではもう一局!」

「は。不肖この長谷部、全力でお相手いたしましょう」


昼から始まった対局は夕餉を挟み、夜半まで続いた。

途中、遠征部隊の帰還により中断しかけたが、審神者は「よしなに取りはからえ」の一言で片付けた。さすがに暇な刀のちょっかいは受け流すにもうっとおしいものがあったが、時間の経過につれて疎らになった。途中、あれこれ口を出されてイライラした審神者が人払いをし、結局のところ、また長谷部と二人になっている。

お互いに疲れはあった。だが、手を抜かず、長谷部は連勝し続け、審神者は食らいついていった。

「王手!」

審神者の指が飛車を置く。タン、と清々しい音色が静かな本丸に響く。

長谷部はじっと数秒、黙考した。不意に口元を緩め、深々と頭を下げる。

「……参りました。お見事です」



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