▼ (3)隊長
近頃、小夜君がぼろぼろになって戻ってくることが多くなった。熟練度で言えば、加州君たちに次ぎ、兄の宗三よりも高い。なのに、小夜君だけ、手入れを受けなくてはいけなくなってきた。
「小夜な。……うん、ちっと持久力がない」
加州君が難しそうに眉間へ皺を寄せた。それ以上を曖昧にしたいのか、小首を傾げて口をつぐんだ。
安定君は肩を竦めて、淡白な顔色で唇を開く。
「暗闇からバッと飛び出るとか、暗殺みたいなことをさせると強いけどね。一回ぶちかまされると、もう動けなくなる。小夜は体も小さいし、そろそろ厳しいんじゃないかな」
「……そんなこと言わないであげて」
「うーん。まあ、最後に決めるのはさにわだから」
実に彼は正しい。厳しすぎるくらいに正しい。時々泣きたくなってしまうくらいに現実を突きつけてくる。彼はよく切れる刀で、性能はよくて、だけど、使いづらい。みんなみんな平等に好きになってあげたいけれど、なんだかうまくいかないのだ。
「シビアな判断ありがとう。安定君のこと、頼りにしてるよ」
声が震えてしまった。私は泣かない。きっといい道を見つける。だから大丈夫。
ふう、という、安定君の湿気っぽいため息が聞こえた。
「損な役割だな。いいよ、僕が悪役で。そしたら加州が励ましてやればいい。効率的に愛してもらえる」
「そんな言い方ないだろ」
小さい声で加州君が諌める。現実は突きつけるほどに凶器。誰の耳にも痛くて、安定君自身、言いながらきっと傷ついている。傷つけているのは私だ。だけど、一人一人、抱えているものが違う。できる限りのことはしているつもりだけど、ままならないものだ。
「じゃあ、さにわを真ん中から切って半分こしようか。右と左、どっちがいい? それとも上半身と下半身にわける?」
加州君は考えるより先に口から言葉が出てくるタイプだけれど、言い負かされて黙りこくってしまった。俺だって愛されたいんだよ、という、悲痛な声が聞こえてきそうだ。
「ま、そんな冗談は置いといて」
もう一度、気持ちを切り替えるようなため息。安定君が私を見つめつから、身を縮めて覚悟を決める。
「小夜には荷が重い。そろそろ隊長を変える時期じゃないかな」
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