▼ (3)隊長-3
手入れ部屋に行くと、小夜君が妖精さんにポンポンされていた。本体の小夜君は負傷した腕や足に包帯を巻いて、ゴロンと畳へ横になっていた。けれど、私が来たら流石にだらしないと思ったのか、体を起こした。
「お疲れ様。絆創膏、増えちゃったね。痛いね」
「別に……休まなくてもいいくらいだよ」
小夜君は、ぐっと拳を握った。力みすぎて拳がぶるぶると震える。腕の包帯にじわりと血がにじんだ。真っ青な顔を見たら、目が荒みきっていた。
「僕はまだまだ殺せる。胸の中の黒い澱みが、ちっとも晴れないんだ……戦場にいないと落ち着かない……」
腹の底の黒い泉からあふれ出す如く。ぶつぶつと低い声で妙に単調に小夜君はつぶやいた。
「それは、戦場にいたら晴れるの?」
「……わからない」
難しい顔をして小さく首を横に振る。上げた髪の毛が尻尾のように揺れた。
私は、小夜君の硬く握った拳に、手のひらを重ねる。骨と皮だけみたいな、ごつごつした小さい手だ。
「小夜君は戦う場所がなくなったらどうするの」
「僕は……それでも復讐をする。最早復讐は果たされているけれど、人が僕に復讐を見続ける限り、僕の中の復讐は果たされないんだ。……きっと、永遠に」
視線が合わない。うつむいて、暗いことばかりを考えているのだ。気持ちが心の内側のずうっと奥にどんどんともぐりこんでいく。きっと力不足を感じて、それをきっかけに、ぐんぐん気分が落ち込んでいるのだろう。
重ねた手のひらに、力をこめる。
「私は、小夜君の主……とりあえずね。だけど、小夜君は小夜君。わかる?」
「わかる」
「私は、小夜君が、いつか笑ってくれたらいいな、って思う。それは、なんていうか……小夜君が好きだから」
じろり、とばかりに顔が上がる。にらまれてはいない。ただ、三白眼だからそう見える。柔らかそうなほっぺたがちょっと赤くて、ぷくっと膨れたように見えた。
「……それは、そうも軽々と言う言葉じゃない。やめて」
照れているのだ。駄目だ。可愛い。こんな風に感情を出してくれるなんて。嬉しくてしょうがない。思わず抱きしめてしまう。
「やめないよっ!」
「痛い」
「あ、ごめん」
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