▼ (3)隊長-2
「僕が隊長?」
宗三は驚いて目を見開いた。こんなに大きな目をしていたのかと私のほうもびっくりした。
「いいんですか? この配置で」
「うん。私は一人一人の実力をあげていくことを重視しているから、隊長は一定の期間で交代させてもらってるの。そうすることで、より戦場での立ち回りが効率的になるはず」
「そううまくいくものですかね。机上の空論ではありませんか」
「一人だけが隊長を務めていた場合、もしも隊長に何かあったとき、部隊がうまくまとまらないでしょ。統率が取れなくなって全滅なんて最悪に間抜けな事態も想像できる」
「僕は飾り刀ですよ。戦に出た経験は、そう多くはないんですけれどね……」
やんわりと回避されているように感じた。不安と困惑が、彼の瞳を落ち着かせない。だけど、少しは嬉しいらしい。白い頬がほんのりと染まっているように見える。あわてているのだろうか。
「経験は今から積んでも間に合うよ。宗さん、イケてると思うんだけどなぁ……」
まっすぐに見つめる。どんな視線が返ってくるのだろうか。
「まあ、そこまで仰るのならば仕方ありませんね。引き受けましょう」
宗三は気おされたように目を丸くした後、繊細に瞼を伏せて視線をそらした。だけど、怖さとか不安で逃げたというよりは、仕事を任せられて嬉しいことに対する照れか。
「ところで、先日のことですが」
「先日?」
オウム返し。なんだっけ。私が心当たりを探している間に、こっちを見ないまま宗三は話を進める。
「やはり、あの魔王の手が入っているというのは、魅力的なんでしょうね」
「あぁ……はぁ……」
ナルシズム? 自慢かな? ついイラッとしたのが顔に出たらしい。宗三は細い眉を寄せる。
「謝罪しているのがわからないのですか?」
「お、おぉ? うん……こんなに高圧的に謝られたの初めてで、どう対応していいのか」
「人を馬鹿にするのもほどほどになさい」
「あっ、はい……すみません」
口先から生まれてきたような私も流石に謝ってしまった。キリッとした顔で言い切れちゃうとか、一体、どんな育ち方をしたのか。いやまあ、そのあたりは一応、勉強してはみたけど。
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