とうらぶ 宗三 | ナノ



▼ (25)穏やかな日常

 宗三は自主的に手合わせを頼んで、地道に修行をしている。能力値的に難しさもあれば、練度の差も大きく開いてしまっているので、なかなか大変みたいだ。戦いにも行かないのに毎日すり傷やら打撲を作っては手入れ部屋で妖精のお世話になっている。

「温いぞ宗三ぁ! そんなんじゃいつまで経ってもお飾りだぞ、オラッ!」

 安定君が擦り合わせた竹刀を力任せに押して、宗三を遠慮なくぶっ飛ばした。転がっても受身で姿勢をたて直す宗三だけれど、横っ面を蹴られて床に転がった。

「そっ、そこまでやることありますか!?」

「折られない心構えを教えてやるよ。生き残りたいならつべこべ言うな」

 親指を立てて、首を横に掻き切る仕草。安定君の目は限りなく真剣だ。

 格好悪いから見られたくない、とは宗三の言葉。安定君に追い掛け回されて、追い詰められて、リンチに見えないこともない。しかし細かな指導を見ていると、ツボを押さえた現場仕込のスパルタという方が正しいのだろう。

「安定君、熱入ってるね」

 加州君につれられてこっそり覗き見しにきた私は、小さな声で言う。隣の加州君はニヤニヤ笑って肩をすくめた。

「あいつ不器用だし、チョー頑固だからね」

「ええっと……やっぱり責任、感じているってことか」

「いやあ。まあ、なあー」 

 苦笑だ。どこか呆れた目で私を見つめてくる加州君。他の理由は思い当たらない。なんでこんな微妙な反応をされているのだろう。

「まあ、ヤツもさにわに惚れていたということだ」

 私の後ろから三日月さんが声をかけてきた。ついでにお尻を触られた。思わず振り返って「ふんっ!」と突き飛ばすように手が出てしまう。

「うわっ。それ言っちゃうの?」

 振り返る加州君は、私が三日月さんへ無言の張り手をかましていることに目をぎょっと見開いた。小首を傾げると、三日月さんへ迷惑そうに困った顔を向ける。

「さにわ、鈍感だからさー……安定が可哀相だろ」

「んん。こいつは気がついているさ。あえてそう思わないようにしているだけだ」

 だろう? 私を見た三日月さんは、からかうような視線だけで同意を求めてきた。

 加州君の驚いたような目。

 ……どうなんだろう? 三日月さんの言葉の力はすごい。言われると、なんかそんな気がしてくる。私は、もしかすると全部わかっていて、その中で、自分のいいように選んでいたのでは? ……まさか。本当に? 自分で自分がわからなくなってきた。

「まあ、俺とて弱い男にくれてやるためにさにわを育てたわけではないからな」

 くつくつと肩を揺らす三日月さん。なにがそんなに面白いんだろう。私が簡単に惑わされているからおかしいのだろうか?

 宗三が堂々と公表してしまい、結局、両思いということがみんなに知られてしまった。それでも、人間関係が崩れることはなく、それなりに運営されている。

「はーいはーい、ここまでー! ほら宗三、手入れ部屋いくよー!」

 次郎さんは何かの監督みたいにパンパンと手を叩く。安定君はつき物が落ちたみたいに顔から険しさを取り除いた。そしたら、なんだか虚しいような、寂しそうな表情が残った。

 次郎さんはダルそうにしている宗三を小脇に抱えた。えっ? 安定君を気にしていたつもりが、思わず二度見してしまいそうな光景にひきつけられてしまう。

「かつがないでいただけませんか?」

「なら立ってチャキチャキ歩く!」

 ポーンと放り出される宗三は「なんて雑な扱いを……」とかぼやきながらしぶしぶ立ち上がる。そして、ベシーンと大きな次郎さんの手のひらで背中を思い切り叩かれて痛がった。

「それと、今日は獅子王が魚さばいたからね。盛り付けは歌仙だよ。見た目が嫌とか言わないでちゃんと食べんのよ? あんた細いんだから」

「無駄な筋肉や脂肪がついていないだけです」

「はぁ〜? 喧嘩売ってんの? 受けて立つわよ?」

「はは、辞退しておきますよ。あなたのとてもご立派な上腕二等筋には勝てる気がしない」

「ちょっと! 気にしてんだからやめなさいよね! せっかく面倒見てやってんのに、ほんっと、可愛げないんだから」

 次郎さんも流石に怒っている。だけど、唇を尖らせてドスドスと廊下を踏み鳴らすのは、かえって女の子らしい。体格のせいで足音は大きいかもしれないけれど。

 一緒に黙って見守っていた江雪さんは、そのままスッとすり抜けるようにして足音小さく去っていった。特に笑いもしなく、和らぐこともなく、仏頂面のままだ。戻ってきても、弟が心配なことには変わりないのだろう。……それとも、と、考えて、やめておく。

「……ほら、そろそろ兄さんの面倒見てあげなよ」

 江雪さんを哀れむように見送った小夜君は、ポンと私の背中を押した。

「あ、う。そ、そうだね」

 小夜君、加州君、三日月さん。それぞれの視線を向けられると居心地が悪く、照れ笑いを浮かべることしかできなかった。

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