とうらぶ 宗三 | ナノ



▼ (23)話し合い-2

「はい、解散。お話終わり。明日も早いよ。みんな、おやすみなさい」

 パンパンと手を叩く。私も一人になりたかったのだろう。だけど、やっぱり彼らの兄弟の話なのだ。小夜君がすっと私の傍に寄ってきて、チラとみんなを目で追い払った。

「……なんだ、これは僕のせいなのか?」

 歌仙はぜんぜん納得いってないみたいだ。誰に言うでもなく呟いて額を押さえる。ここに来て初めて役職を与えられて責任を覚えているのだろう。

「みんなおあいこだよ。さにわは悪い冗談を言い、お前はキレて、僕らは盗み聞きをしていた。ホントに雅じゃないね」

 意地悪に唇をゆがめる安定君。嫌っているわけではないのだろう。親愛のコミュニケーションはほぼ挑発だった。さすがの歌仙も少し気分がしょげているようで、言い返すこともなく唇をむっと結んでいるだけだ。

「ほら、連歌でもなんでも付き合ってやるから、部屋いくぞ」

引っ張る加州君。背中を押す安定君。不服そうに眉を寄せる歌仙。混ざりたいようで、次郎さんも獅子王も固まっている。

「君たち下手じゃないか。それにすぐ下ネタに走るだろ」

「贅沢言うな。そっちだって修飾過多でウザいし何言いたいかさっぱり意味わかんないだよ」

「僕は美文なんだ、君たちみたいに粗野じゃない」

 遠ざかる話し声。きっと、ある程度の距離をとったら、けっこう真面目な座談会になるのだろう。彼らは彼らで大変なのだ。私が一人で抱えているわけではない。戦場で戦っている彼らはこんなにも健気なのに、座っているだけの私は落ち込んだり寝込んだり慰められたり……心底から情けない。

 部屋が静かになってしまった。三日月さんは外で夜空でも眺めながら聞き耳を立てているのか。距離があっても気にされている内は見放されていない証拠だろう。

「どうしたの。何一つさにわらしくない」

 ぽつり。小夜君は、雨の降り始めみたいな声で言う。

「私らしさ?」

「そうだよ。さにわは……感情に、正面から、ぶつかってくる」

 言葉を選びながら、ぽつり、ぽつり。雨は次第に熱を帯びて強まっていく。

「さにわといると、とても辛いよ。自分の嫌なところ、怖いところ、まっとうに見つめることになるから」

「……でも、感情に振り回されているだけじゃ、この先進めない」

「何、自分勝手なこと言ってるの。散々人を振り回して言うことは逃げか」

 小夜君が睨み付けてきた。私が殺されそうになったときと似た目をしている。本気の本気。だけど今、向けられているのは冷たい殺意ではない。熱い怒りだった。

「さにわがそんなじゃ安心して戦いに行けない。さにわのことが好きだから、さにわのために死んでもいいって、僕らは戦場に出てるんだ。少なくとも僕はそうだ。戦場に出られなくても、あなたのために死ぬ覚悟はできている。折れて戻ってきても、全部が振り出しに戻っても、何回でも大切にしてくれるって信じているんだ!」

 ふうっと、煮えたぎるものを吐き出すように鋭いため息。小夜君は爆発しかけた感情を内に折りたたんで、瞳へと織り交ぜた。触れれば切れてしまうほど鋭い視線だ。

「それができないなら、あなたは僕の好きなさにわじゃない。偽者は、今、ここで殺してやる」

 小夜君は低い声で言うと、刀を抜いて、ゆっくりと先端を私の胸元に向けた。刃を向けられるのは二回目だ。だけど、今は、怖いわけじゃない。もちろん怖いけれど。怖いのは自分の弱さと失敗だ。

「……もっと強くなりたいよ」

「僕だって」

 泣きたくなった。涙がこみ上げて顔が熱くなった。でも、小夜君も泣きそうな顔をしていたから、迂闊に泣くなんてできない。沽券ではない。相手が我慢しているのに、どうして、そこに甘えられるのか。

 刀を納めて、小夜君は「ごめんね」とつぶやいた。

「幸いここにはひとまず頼れそうな連中がいる。何か間違えば誰かが正してくれるさ。転んで立ち上がったら、あとは、無理して走ることはないよ」

 私は首を縦に振る。言葉を出したら、やっぱり泣いてしまいそうだった。こんなにも小夜君が優しい口調で喋るなんて。

「僕にはわからないけれど……何かしら手は考えているんだろう?」

 再度、私は頷いた。

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