とうらぶ 宗三 | ナノ



▼ (23)話し合い

 宗三の世話係は歌仙に任せることになった。なぜなら彼は、宗三と仲がいいといえばそうだけど、別にそうでもない、ともいえる。歌仙は独特の世界観で生きているらしく、一人でも二人でも楽しいときは楽しい、自分の興味と価値観の中で楽しみたい、というマイペースなところがあった。人間としては扱いづらいけれど、今回は『一番蚊帳の外』がありがたい条件だ。

「やっぱり、再刃したことは話したほうがいいんじゃないかい?」

「本人が聞くまで話す必要はないよ。ただ、不自然に隠す必要もないと思う」

「ふうん……」

 歌仙は顎に手を当てて、考え込むように相槌を打つ。

「おかしいと思ってからじゃ、不信感の方が大きいかと思うけどねえ。騙されたような気分になるかもしれない」

 騙されたような気分、か。それもそうかもしれない。しかし、気がつかなければそれがいいとも思う。だって私はそれまでを気のせいにしてリセットしようと考えているくらいなのだ。私がうまく嘘をつけるようになるまで、なんとか引き伸ばしたい。

 私は真面目な顔を作った。

「歌仙……実は最初にこの本丸にいたのは加州君じゃない。君なんだ。君も、再刃なんだよ」

「えっ……なんだと!?」

 歌仙は手を前について、すごい剣幕で私へ詰め寄ってくる。物憂い顔で私は目をそらした。

「おい! それはどういうことだ!!」

「どうしても言いづらくて、黙っていたんだけどね……言うなら今しかないかな、って」

「ずっと僕を騙していたのか!? 何故だ……嘘だろう!?」

「うん。これ嘘」

 頷く。

 私の嘘がどちらのほうを指しているのか、混乱している歌仙にはわからなかったらしい。だが「ごめんね」とにっこり笑ったら、再刃ということが嘘だと気がついたらしい。

 やっちゃいけないタイプの冗談だったかな、なんて、今になって気がついた。そうなるともっと気まずくてニヤニヤしてしまう。

「きっ……貴様あああ!!」

 歌仙は床をドンと踏み鳴らして立ち上がった。見下ろされる。ものすごく怒った顔を向けられた。私の態度が気にくわないのだろう、そうだろう。たぶん私も同じことをされたらブン殴りたくなる。

「殿中! 殿中でござる! 誰かー!」

 でも死にたくはないのだ。吉良上野介の気分で叫ぶ。

 シャシャシャッ、と四方の襖が開いた。誘い合わせてきた連中同士でまとまっていたせいか、他の面子が自分と同じようなことをしていたことに気がついていなかったらしい。

 加州君と安定君。次郎さんと獅子王。江雪さんと宗三と小夜君。庭のほうからは三日月さんの爆笑が聞こえてきた。

 流石に歌仙の手打ちゲージも下がってしまったようだ。その場にいた全員がぽかんとしていた。コントか。

「そ、そんなに僕は信用がないのか!?」

 みんな気まずそうに顔を見合わせるのが、また。

「もういい! 僕は本丸を出ていく! 追いかけないでくれたまえ!」

「ごめんごめんって! 私が悪かった! 歌仙がいなくなったら喧嘩友達減って寂しいよー」

 袴の裾を引っ張って引き止める。

 ……喧嘩友達、か。

「やれやれ……僕の主がそこまで言うなら仕方ない。ただし、君たちは覚えておけよ」

 歌仙はじとっとした目つきでぐるりと周囲を見渡した。根に持つタタイプらしい。

 どうやら私の困惑は顔色へモロに出てしまったようだ。やっぱり、まだ嘘を吐ける状態じゃないだろう。

 それなのに、話題の宗三はここにいる。なんでいるんだろう。人が集まっていたから何かと思って倣った感じかな。宗三は一人になりたがるし、人を馬鹿にするのだけど、基本的には寂しがりなのだ。

「ええと、宗さん。まあ……そういうわけなんだ。これは嘘じゃないよ」

 宗三は合点がいったようで、静かに一つ大きく頷いた。小夜君も江雪さんも、私と宗三の顔色を伺って視線が行ったりきたりと落ち着きがなくなっていた。

「つまり、僕は籠の鳥ということですね。いつも通りですよ」

 ツンと尖った口調だ。視線も冷たい。刺さってくるようだった。破壊させた私を信頼できないのか、それとも、再刀した私を恨んでいるのか。彼は気難しいから図りかねる。

 言い訳をさせる隙を与えず、宗三は背中を向けた。一人になりたかったようだが、江雪さんが追いかけた。江雪さんは宗三のことを応援しているみたいだし、変に思い出させようとしなければいいのだけれど……そもそもの話がこじれているのだ。もう、散らかすだけ散らかしてしまえ。


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