▼ (19)選りすぐりの隊長
「僕が隊長か。出世したもんだなぁ」
執務室に呼びつけられた安定君は皮肉に呟いた。穏やかに笑いながらも視線は鋭く、私の考えを覗き見るようだ。
「君の考えを当ててみようか。僕が暴走しないように、あえて責任のある役職を任せようとしているだろ」
「さすが古株。嫌んなっちゃうね」
「馬鹿にしてくれるなよ。加州はわからないけど、僕は騙されない。あんな単純じゃないからね」
親しい友達を小馬鹿にして舌を出すような言い方。私は肩を竦めると、安定君はフッと鼻で笑った。
「でも、少し嬉しいかな。じいさんが来てからこういう話をしなくなったからね」
ぎくり、とする。最初は加州君と安定君に頼りきりだった。次第に仲間が増えて、力量の差が出て『頼れる人』に頼ることが増えた。みんなに等しく接していたつもりだったけれど、指摘されて、気がつく。やっぱり安定君は使いにくいけれどいい刀。怖いけれど、いつも忘れてはいけない大切なことを教えてくれる。
言い訳をしようと思って、口を開こうとして、「独り言だから返事はいらないよ」と、言葉をさえぎられる。怒っている様子ではないことが救いだ。
「強い者が勝つのは当然だ。それでも、理由はどうであれ僕を選んでくれた。最初に損した分が戻ってきたと考えておこうかな」
「これでも信頼してるんだよ」
「うん。大事にしてくれてありがとう。目をかけられてる分は頑張ろうかな」
視線を合わせる。頷く。今はもう、彼との会話が怖くない。信頼かもしれない。それとも、図太くなれたのだろうか。いずれにしても。彼を隊長にしても、不安定な精神を受け入れる自信ができた。
「さて。編成と作戦の相談に入ろう」
資料を間に置けば自然と仕事の厳しい顔になる。
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