とうらぶ 宗三 | ナノ



▼ (15)台所

 台所に入ると、次郎さんと獅子王が料理をしていた。

「おや、さにわぁ! 貧血で倒れたってねぇ。大丈夫かい?」

 びっくりしたような大きな声に、こちらがびっくりしてしまう。煮立った鍋を放置して次郎さんがどどどっと駆け寄ってきた。

「あんた食が細いからさぁ、きっと栄養が足りてないのよ。これからは次郎さんが栄養満点の手料理、腕によりをかけて作ったげる! ビタミン不足はお肌の敵だしねぇ」

 勢い込んで言葉のラッシュを叩き込まれる。ものすごく心配されているということは手厚さからよくわかる。とても嬉しいけれど、嘘をついているのだと思うと後ろめたい気持ちになる。

「あ、ありがと。もう大丈夫だからさ」

「さにわはいつも無理するからねぇ。次郎さん、騙されないよ!」

 嗜めるようにいかつく睨まれてしまった。……頼りになる……。

「次郎さん……だいすきぃ……」

 抱きつく。うん、筋肉、女子じゃない……けど、私よりも断然女子力が高い。

「あーん! もう、放って置けないんだからっ!」

 次郎さんは私の頭をぎゅーっと抱きしめてくれた。本日二回目のハグだ。

 前は女友達って言ってくれたけど、実際には妹って感じなのかな。こんなお姉ちゃんがいたらお嫁さんに行っちゃうときに泣く自信がある。うん、女子じゃないから、お嫁さんにはいかないかな。

 ……私も小夜君にとって、そういう人になれたらいいのにな。

「なぁなぁ、さにわ! じっちゃんが『こういうときにはレバーがいい』って言ってたから、俺は鳥を絞めたぜ!」

 ぐっと拳を握る獅子王。気持ちは嬉しいけれど内容がえげつない。でもそれも自然の摂理である。元気なにわとりさんがお見せできない神秘的な工程を辿りジューシーチキン(おいしいよ!)になるのだ。神秘的な工程を見なくて済むことを感謝しなくてはなるまい。

「お酒のつまみ?」

「皮もお願いね〜。コラーゲンは積極的にとらないと。次郎さんタレ派!」

「私は塩かなぁ。ねぎま食べたーい」

 和気藹々と主張してみる。次郎さんといると女子力に磨きがかかる気がするね。獅子王は振り回される役。眉を下げて不満な顔をしてきた。すぐにこういう顔をするから遊びたくなってしまうのだ。

「なんか温度差なくねぇ?」

「へへ。獅子王も心配してくれてありがとう。私、もう倒れないよ!」

「……おっ、おう」

 お礼を言うとあっさり照れちゃうのが獅子王だ。こくこく小さく頷いて恥ずかしそうに目をぱちぱちしている。まったく、遊び甲斐があるヤツだ。

「ヘタレ」

 って次郎さんにからかわれるのもしょうがないね。自分でもそう思っているようで、唇を尖らせて「うるせっ」と拗ねたようにささやかな反抗をした。おかしくて笑ってしまうけれど、馬鹿にしているわけではないのだ。

「……あ、でね」

 と、私はようやく本題を切り出した。お腹をすかせた小夜君に、何か。

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