▼ (1)来た日
小夜君が裸足をペタペタさせながら先立って歩いてきたけれど、いつもよりソワソワと視線の落ち着きがない。そんなに後ろの人物が気になるのだろうか。
その人は痩身長躯。長い首をしな垂れさせるようにうつむきがちだった。白い肌も、体つきも、立ち姿も、病的な印象を与える。紫色の服装が肌に反射して、なおのこと青っぽく見えてしまった。
「新しい仲間だよ」
手短な言葉。促すようにその人を見上げる小夜君。
「……宗三左文字と言います」
薄い唇。口角は下がっているのに、笑っている。無気力に下がった眉と、左右の色が違う死んだ目。幽霊のように力なく宗三は言った。
「左文字?」
「そう。僕の兄にあたる」
うなずきもせず、愛想のない切りっ放しの言葉が返ってきた。なんだか引っかかる言い回しだ。それから、興味をなくしたようにフイッとそっぽを向いてしまった。
「そっか。小夜君のお兄さんか。審神者です。弟さんにはお世話になってます。どうぞよろしく」
宗三は私の言葉に軽く眉を寄せた。チラリと横目で弟の姿を捉える。どうやら小夜君はあえてそっぽを向いていたようだ。宗三の視線はとても弟を見るものではない。石ころとか、ゴミとか。とうてい好ましい感情には近づけないようなものだた。
フン、と、高慢に鼻で笑い捨てられる。袖口で軽く口元を隠した宗三は、私にも小夜君へ向けたものと同じ瞳を投げた。
「貴方も、天下人の象徴を侍らせたいのですか……?」
「……?」
何を言っているかわからなかった。ただ、ポカンとしている私を嘲笑していることだけはよぉくわかった。
「おー、新しいお仲間さん、いらっしゃーい! 説明するからこっちきて!」
廊下の向こうから加州君が呼びかけた。加州君は最古参で、隊長みたいに人をまとめる役職は好きじゃないみたいだけど、なんやかんや周囲とのバランスをうまく取ってくれる子だ。まあ、適度になんとかしてくれるだろう。
「失礼します」
小首を傾げるみたいに品よく会釈して、ゆったり空気を揺らすように呼ばれた方へ去っていった。
小夜君は横目で後ろ姿を追っている。私は手招きをして呼び寄せる。
「小夜君。なんなの、あれ。クソ性格悪いんだけど」
「あの人は自分のことしか考えていないからね。僕もそうだし、おそらく、みんなそうだよ」
表情に感情が出ないこともいつも通り。だけど今は、悲しさを押し隠しているように思う。
「そうかもしれないけど……でも、私は何があっても小夜君の味方だからね!」
痛ましくて、なんとかしてあげたくてしょうがない。だから隊長にした。だから抱きしめる! ぎゅーっと!
「……はあ」
疲れたようにため息をつかれてしまった。はいはい、と適当に流す要領の良さを小夜君は持ち合わせていない。故に、復讐にとりつかれてしまうのだ。生来の真面目さが可哀相なくらいだった。
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