▼ (14)大人と子供
寝ていても小夜君の傍を離れがたかった。手持ち無沙汰のような、そうでないような。小夜君の寝顔をぼうっと眺めながら、宗三の手を伝った血の色が目に焼きついて、思考にチラついてしまう。
「宗三が、気になりますか……?」
岩みたいにじっと動かない江雪さん。私の顔色を読んできた。読まなくてもわかるか。心配を交えた苦笑を一つ吐き出す。
「うん……怪我、してたし……手入れできなくても、せめて、手当てしないと」
「小夜は、私が見ていますよ」
「……でも、宗さんは、大人だから」
大人だからなんだ? 放っておいても死なない、適当に処置するだろ、とでも言いたいのか? 傷ついているのは体だけではない、かもしれないのに。でも、少なくとも、小夜君よりは大人だから、折り合いをつけることを強いる……そんなエゴ。
「それに、小夜君が起きたとき、傍に居てあげたいじゃん」
「……あなたは、いい母になるでしょうね」
いきなりプロポーズしてきた前科を思い出して、少し警戒した目になってしまった。でも、江雪さんはしらんぷりをして小夜君をまっすぐ見ていた。天然で独特で鈍感でちょっと戦闘向きな危ない感性をしているだけで、優しい人なのだ。……なんだか自意識過剰みたいな気もして恥ずかしかったけれど、そうさせる相手も悪いということで。微妙な沈黙を返してしまう。
すると、小夜君がパチッと目を開いた。私が「おはよう」と笑いかけると、冬眠から覚めたばかりみたいな緩慢な動作で体を起こす。眠気が抜けきらないようで、とろんとした目が心もとないように見つめ返してきた。
「……お腹すいた」
うわあ……可愛い。全ての憂さが吹っ飛ぶ勢いだ。
「うんっ、ご飯にしようねっ!」
たまらず抱きしめる。ぬくぬくあったか。小夜君はぼーっと、されるがままだ。
江雪さんが、ふ、と小さな笑いをこぼす。笑い顔を拝もうとあわてて振り返ったのに、真顔だった。
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