▼ 刀装
小夜君が袈裟に包んで刀装の球を持ってきた。
「頼まれていたやつ。これでいいの」
袈裟ごと置くと、ドサリと重みの音がする。引き抜くように床に広げると、球がゴロゴロと転がった。
「流石小夜君!上出来ですっ!」
比較的、金色の球の割合が多い。特上は金、位が下がると徐々に色が濁っていく。回転寿しのお皿みたいなものだ。
「なら、よかったよ」
そっけない言葉は受け流すようでもある。しかし、頭を撫でてあげると笑うのを我慢するみたいに口元をぎゅっと尖らせた。
名残惜しくしつこく撫でていたが「確認しなくていいの?」と呆れたように言われてしまう。ちょっと恥ずかしくてコホンと咳を一つ。「今からやろうと思っていたところです」なんて小学生みたいな言い訳をしてしまう。……立場が逆転している。
私は指先で球を転がしながら、種類毎の島を作っていく。
「ええと。軽歩、特上……投石、上……投石、特上……銃兵、上……重騎兵、中……槍兵、中……軽歩、特上……軽騎兵、中……重騎兵……中……盾兵……中……」
随分と偏った出目。小夜君が装備できないやつに限って中だ。
「……これは……騎兵とかも、がんばって欲しいな〜なんて……思うんですけど」
「それは僕が装備できない」
むーっと、唇を尖らせる小夜君。言葉では伝えてこないけど不機嫌。ただ、見る人が見ないとわからないくらいのささやかな表情の変化だ。
「……みんなが使うのよ?」
「僕は使わないよ」
「もう。いけない子ですね」
小夜君のふにっとしたほっぺたを掴んで、みょーんと横に引っ張る。すごく嫌そうに眉が寄ったけれど、そこはかとなく痛そうにも見える。
「そんなにわがままを言うなら、隊長を下ろしますよ」
剥がされる前に、ぱっと手を離す。
小夜君は伸びてしまった頬を元の位置に馴染ませるように両手で抑えた。
「わかったよ。次から頑張る」
不承不承、小夜君は頷いた。困ってしまうけれど可愛い子だ。
視線が、ほんのわずか不安そうに見上げてくる。
「……僕のこと、隊長から外さないよね?」
「もちろんです。小さいけど優秀な隊長さんですよ」
わっ、と、目が大きく開いた。三白眼は白い面積が多い。まだ青いくらいに澄んだ白が、キラキラっと輝いた。まるで素直な子供みたいに。こんな小賢しい意地悪をするなんて思えないほどに。誇らしげに、眉へ力が込められた。
不意打ちだ。それはお互い様かもしれないけれど。
抱きつくしかなかった。「何?」と、びっくりしたように問われて、「次の仕事も期待してますよ」と、本心のような、ちょっと違うような、言葉を出してみる。
「審神者の敵は僕の仇だ。片っ端から残らず殺すよ」
ますますやる気が出たようだ。物騒だった。
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