▼ ファミマコラボの日なので
山姥切国広が、じっと見つめてきた。青い瞳は相変わらず透き通っている。
「……今日はいつもよりめかしこんでるな」
「わかりますか。万屋にお出かけです」
「なるほど。……その……」
少しの躊躇いの間をとって、顔を真っ赤にしながら。
「その着物、に、似合ってる。綺麗……だと思う」
「私が?着物が?」
「聞くな……」
布のフード部分を指先で引っ張って下げて、山姥切国広君は恥ずかしそうに俯いた。
私は身長差を生かして、下から潜り込むように山姥切国広君の顔を見上げて、フードを手で軽く広げた。丸くて大きい善良そうな瞳が、おろつきながら私を見つめ返す。
「ふふ。山姥切国広君も、綺麗ですよ」
「綺麗とか言うな……」
「駄目?」
「……ま、まぁ……あんたなら……いい」
にこにこしたら、顔を真っ赤にしてそっぽを向かれてしまった。
「……写しなんか連れてってもあんたの飾りにはならないが、荷物持ちくらいならするぞ」
「あら。一緒に来てくれるの?嬉しい」
私は胸の前で手をパチン。誰かに頼む手間が省けたというものだ。奥を振り返って、声をかける。
「ねえ小夜君、山姥切国広君が手伝ってくれるって」
「……別に邪魔だとは思ってないよ」
わかる人にはわかる、不愉快そうな目で、小夜君は山姥切国広君を睨みつけた。二人が視線で通じ合うくらいに親密なら、それはそれで良し。
でも、小夜君に荷物をもたせるのはやっぱり心が痛むし、私も重たい荷物を持ちたくないし。二人きりでまったりお出かけしたい気持ちは察しているけれど、ごめんね、小夜君。やむを得ない。
*****
「やたらと人が多いな……」
山姥切国広君が怪訝に呟いた。
万屋は多くの人で賑わっていた。ここは審神者以外も利用する店だ。審神者はあまり横つながりがないけれど、確かに、今日は審神者が多い日である。
「審神者特典がある日なんですよ」
「特典?」
「お買い物をするとグッズが頂けるんです」
「あんたも特典、欲しいのか」
「欲しいです」
「そうか」
山姥切国広君は頷いた。いまいち会話が広がらない。
「……そこまで媚びないと買ってもらえないくらい物が飽和してるんだね。羨ましいことだよ」
小夜君がドライに呟いてまとめた。なんか……目が覚めるというか、気持ちが冷めるというか。
*****
購入完了。各必要アイテムも揃い、気持ちのいいお買い物だった。小夜君は手ぶらで、山姥切国広君が全部の荷物を両手でぶら下げているのは、多分、そこはかとない嫌がらせだろう。
「じゃあ帰りましょうか」
と、足を進めた私は見事に転けた。小夜君が手を引っ張ってくれたから顔から突っ込まなかったものの、膝を思い切り地面へぶつけてしまった。
「お、おい!大丈夫か?」
焦る山姥切国広君。
「血は出てない?痣は……」
落ち着いた声の小夜君。
「いたた……大丈夫ですよ」
ゆっくり立ち上がってみる。まぁ、青あざくらいですむだろうか。切れた感じはしない。
おっと、切れたのは下駄の鼻緒だったようだ。
「あらら。どうしましょ。代わりの靴、買おうかしら」
「僕が買ってくる。審神者は座って待ってて」
お財布を渡せと手を差し出す小夜君。小夜君のセンスは知らないが、任せてもいいか。私は財布を出そうとして。
「いや。小夜、荷物を頼む」
山姥切国広君が荷物を一つ小夜君に渡した。そして、私に背を向けてしゃがみこむ。
「乗れ」
おんぶしてくれるらしい。悪い気はしない。
「あらあら。やることが王子様ね」
「姥捨山だろ」
何か山姥切国広君が言おうとしていたところ、小夜君は間髪入れずに鋭い声で突っ込んできた。
ごめん、山姥切国広君。笑ってしまった。
「審神者を山に捨てて山姥にするつもりか。山姥退治は君の仕事じゃない、今は荷物持ちが君の仕事だ」
乱暴に荷物を突っ返した小夜君は、再び私に手を差し出した。今度はちゃんと手渡す。
「笑っちゃってごめんね。でも、荷物も重いし、ちょっと恥ずかしいから……」
「……はは。そりゃ、写しにおぶられたくなんかないよな。知ってたよ」
ものすごく自嘲的に山姥切国広君は笑った。落ち込んだのか、闇が深い笑いだった。
「そういうわけじゃないんだけど……江雪君がおんぶしてくれるって言っても、きっと断ったわ」
買いに行こうとしていた小夜君の足が止まる。
「なんで兄さんの名前が出てくるの」
「いえ、特に理由は……歌仙君でも宗三君でも構わないのですが。大きくて強いから」
「やっぱり大きくて強い刀が好きなの」
「そういうわけでも……」
「小さくても写しよりはマシだろ」
「君は黙ってて」
「写しの話なんか聞きたくないと……ははは……」
収集がつかなくなってしまった。私は頭を抱えた。マイナスとマイナスは掛けたらプラスになるはずなのに、なぜ数式通りに行かないのか。実に興味深い。
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