▼ 眠れない
はっと目を覚ます。どんな夢を見ていたか覚えていないことは幸いだった。ただ、心臓は妙に早く打ち、非常に心地が悪い。
起きるにはまだ早そうだ。時計を見上げたら、寝付いて二時間ほど、くらいだろうか。
隣の審神者は健やかに静かな寝息を立てている。体を捻って審神者の方を向く。無防備な寝顔だ。
――そして、無防備な胸元だ。
審神者の胸元が開いていた。多分、寝返りとか、そもそも緩かったとか、色々な条件が合わさっていたのだろう。着物のあわせから白いつやつやの肌が覗き、女性らしい柔らかな谷間が、たゆみ寄っていた。
……なにを考えているんだ、僕は。いやらしい気持ちなんかない。ただちょっと、ドキドキするだけだ。
審神者をそんな姿で放っておくのは嫌だったので、襟元を引っ張って、隠そうとする。
「……うーん……?」
唸った。目が、覚めてしまった。審神者は寝起きの目で僕を見つめる。僕の手は着物の襟元を掴んだままだった。やましいことなんかないのに、咄嗟に離してしまう。
「ち、ちがうんだよこれは。はだけていたから、だから、直そうと」
「……し、紳士ね」
審神者は困ったように眉を下げて笑った。気まずい空気が流れる。これ以上否定をしても、きっと意味はない。
なんで信じてくれないのか、という言葉は出てこなかった。もう少し前なら、多分、言えた。
「その……ちゃんと寝ないと、いけませんよ」
ぽんぽん、と、あやすように頭を撫でられる。それから審神者は背中を向けて、再び寝た、ふりをした。眠れていないことは呼吸の調子でわかるものだ。僕も眠れず、ただじっと、布団の中で息を潜めていた。
prev / next