とうらぶ 小夜隊長 | ナノ



▼ 小さくなった

「大将大将!」

勢いのいい呼び声。振り返ると薬研君が白衣を翻してこっちへ駆け寄ってきた。

「すげえよ!俺っち大発明しちまったよ!」

いつもはクールな頬を赤らめて何やら興奮している様子。その手に持った小瓶は、中にブラックホールでも入っているのかというような怪しい色をしていた。

「何かしら……?」

なんか嫌な予感。思わず笑顔が強張ってしまう。

「……なんだろうな?ただ、間違いなくすごい!きっとすごいだろうという自信だけはある!」

薬研君、お目目キラキラ。私、死んだ目。

「そうですかぁ……。薬研君はいつも大人なのに、こういう時だけは年相応で可愛いですねぇ……」

「大将!協力してくれよ!」

イコール、実験台になって欲しいということ。

薬研君の作った怪しげな薬は、とんでもない味だったこと数回。お腹を下したこと二回。なんとなく元気になったこと四回。効果がなくても美味しかったことはない。

しかし、薬研君がこんな風に甘えてくることは、薬と怪我をした時以外には滅多にない。普段の立ち回りは鼻につくほどスマート極まりないけれど、研究者体質らしく、興味のあることだけには不器用に突進して行く。そんな姿は愛らしくも応援したくなる。

「はは……任せなさい。ぐっと飲んでやりましょうとも」

薬研君から小瓶を受け取り、鼻をつまんでブラックホールを流し込む。輝く視線がミルキーウェイのように突き刺さってくる。子供は残酷。

「うっ……薬研君、体が熱くなって来た……一体これなんですか」

目眩もする。頭がクラクラ。額を押さえて、瞼を閉じた。

数秒経って、落ち着く。

目を開ける。引きつった薬研君の顔が……やや上に?

「……自分の天才っぷりが怖ぇ。冷静になったぜ。すまん、大将」

薬研君は背伸びをしているわけでもなく。私は膝を伸ばして立っている。手のひらを見ようとしたら、服の袖が手を覆っていた。

……ミニマム化?

「これは……体は子供、頭脳は大人……ってやつ……かしら……」

「大将が余裕そうでちょっと安心したぜ!」

「いや、本当にすごいですね、薬研君ってば。でも冷や汗かいてますよー」

薬研君の汗を袖口で拭ってやる私も、声と足の震えが止まらなかった。ガクガク言っていた。



こんな状態、間違いなく薬研君が怒られてしまう。本人も顔色が消えるくらいに懲りているから、なるべく隠密に処理したいところだ。どうやって?薬研君ですら想像しなかった効果なのに。

真っ先に困ったのは服がないことだ。着物はある程度の体格に対応するといっても、子供に大人ものの着物は重い。仕方なく薬研君の換えの服を持ってきてもらった。

「粟田口大将だ……」

ぽつりと漏らす薬研君。

「うふふ、粟田口といったら誤魔化せますかねぇ……?」

「兄弟以外なら通じるかな」

「ちょっとイタズラしたい気持ちもありますね」

「勘弁してくれよ大将……内緒にしといてくれるんじゃなかったのかよぉ……」

「はいはい。ベソかかないの。落ち着いて考えましょうね」

滅多に見せない取り乱しっぷり。これは本当に焦って混乱しているのだろう。私は薬研君の頭をポンポン撫でて……というには少し高い位置に頭があるので、手袋越しに手を握った。

「……大将、ちっちぇな……」

少し落ち着いてきたのか、薬研君は不思議そうにまじまじと私を観察してくる。

「縮んじゃいましたからね。これ、十歳未満かなぁ……」

「弟達よりも小さい……いっそこのままでもいいかもしれないな……」

「いえいえ、そこは戻すために頑張ってください。落ち着いて、ね?」

「いや、これなら年の差を気にしなくてもいいし……」

そういう問題?

真剣な目を向けられる。どうやら(多分)初恋のお姉さんの座をいただいてしまったようで、恐悦至極な話だ。だけど初恋も叶わないというのが定説である。お願いだから元の大きさに戻して。

「薬研、それ誰?お前の兄弟か?」

そっけない声が聞こえた。小夜君だ。私と喋る時には油断しているんだなぁ、なんて思うくらいに、警戒が言葉の端に含まれている。

どうにもこうにも、小夜君の目は真っ直ぐすぎて嘘をつきづらい。私は「あはは」と愛想笑いを浮かべたら、薬研君もつられたのか似たような反応になってしまった。

「……審神者?」

どこかに面影があったのだろう。こんな状態になっても、小夜君はもしや、なんて問いかけることができてしまった。私ってば愛されてるぅ。

「……はい」

「…………」

小夜君はしばし黙って私と薬研君をじいっと見つめた。そして一つ頷く。

「大体把握した。薬研、歯を食いしばれ」

「お、おう……」

小夜君より大きいのに、すっかり萎縮した薬研君は目をぎゅっと閉じて体をすくめる。

そこにぶちかまされる体重をかけたグーパン。鉄拳制裁。

私は主に飴担当だから、ドライに殴って制してくれる小夜君は本当に頼り甲斐がある。……怖い。

薬研君は息を詰まらせてぐらついたけれど、吹っ飛ぶことはなかった。ただ本当に痛そうだった。

「反省しているのはよくわかったから、その点については咎めないよ。ただ、審神者に対しての勝手な行動と、相談もなく自体を収束させようとしたことは改めてよ。……審神者も甘い」

淡々とした声音で言われると本当に怖い。私の「はい……」という返事もぶるっちゃってる。

困ったように眉を下げる小夜君。目線が同じ位置にあると……眼光が異常なくらい鋭いのが目立ってしまって正直怖い。どれだけ怖がっているんだろう、私ってば。

「そんなに怖がられると悪いことをしている気になるよ。僕があなたを殴るわけないじゃないか」

「わかってるんですけど……それだけ小夜君が優秀ということです」

うまいこといってごまかす。恐怖に屈しても適度にいなして尻尾を巻くスタイル。

「……なんか……変な感じだ。審神者の、頭の位置が低い……のに、言うことがいつもと同じ」

「どういう意味です?」

「偉そう」

「……立場上は、偉いので……」

相手は神様、そりゃ人間より偉いけど。そう言われてしまうと……うん……主だって言ってくれたのに。ふてくされたい。

「……かわいい」

私の膨れ顔はさぞ子供らしかったことだろう。小夜君は口元を笑わないように尖らせて、頭を撫でてきた。同じくらいの位置にあるものね。いつもの仕返しかしらね。なんだか馬鹿にされている気がする。

「薬研。元に戻る手段は?」

と、小夜君。私の頭を撫でながら。

「いや、それがな……」

まだ怒られんのかなー、という怯えが目から感じ取れる、歯切れの悪い薬研君。

「見つかっていないのか」

小夜君はみなまで言わせない。ひしひしとしたプレッシャーに薬研君は視線が合わせられない。頼りになる隊長だ。

「……うん。このままでも……いいんじゃないかな?」

「ダメです」

間髪入れずに私は言う。本当に頼りになるのか、疑問視すべきか?

なお、小一時間経ったら元の体に戻れた模様。

prev / next

[ back to top ]



×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -