▼ 気になるあの子
「乃子ちゃ〜ん」
琴梨ちゃんが私を呼んだ。雀は眉を寄せた。
「なぁに、琴梨ちゃん」
「マネの申請出しに行きたいんだけど、一人だと寂しいっていうかぁ……」
「一人は心細いよね」
誰かに刺されても、助けてもらえなかったりするし。一人だから、刺されちゃったのかもしれないし。
「ついてきて欲しいの? そんなん、一人で行けばいいじゃん」
やっぱり琴梨ちゃんが気にくわないのか、雀は喧嘩腰に声を怒らせた。
「氷帝の男テニは厳しいんだからね。そんなんじゃマネなんかやっててもお荷物になるだけだから」
「やだぁ、雀ちゃん、怖〜い」
「あんたに雀とか呼ばれたくないんだけど」
私を挟んで喧嘩が始まりそうだった。私こそ、こわ〜い、って言いたい。
「えっと、止めよ? 私、どうしていいか、わかんないよ」
「乃子、あんた、はっきりしなさいよ」
私の敵になるつもり? みたいな感じかな? 雀がツンツンした目で睨んできた。
「ちょっとごめんね」
琴梨ちゃんに断りを入れて、離れてもらう。「なになに?」とかいっているけど、とりあえず我慢してもらって。
雀に耳打ち。
「亮君とイチャついて見せつけちゃえ」
そうすれば、多分有利。
見せつけたら手を出さないかもしれない。
相手のものが欲しくなったとしても、本人が断る可能性もあるし、周囲が叱る可能性もある。鳳君は亮君と雀の付き合いを応援していて、なおかつ、潔癖な面がある。亮君以上に琴梨ちゃんとは馬が合わないはず。
それに、琴梨ちゃんに誘惑されるほど、亮君は大人じゃない。恋と性欲がほど遠くないところにある。純愛しながら童貞している生真面目君だから、間違いは起こらないだろう。
「で、でも……」
いい案だとは思ったみたい。でも、イチャイチャには抵抗感あったかな。赤くなってる。
ほっとこ。
「雀も行ってくれるって。よかったね、琴梨ちゃん」
「ええっ……」
雀、おろおろ。
「琴梨は雀ちゃん怖いよぅ」
「大丈夫だよ。雀可愛いよ。乙女だもん」
でしょ? 雀。
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