▼ 屋上で待ち合わせ
今日の放課後は部活がお休み。だから待ち合わせ。
空の青い屋上で。
「……随分とのんびりしたご登場で」
「ごめんね、若君」
日吉若君。一つ下の、私の彼氏だ。
「乃子さんは本当にのんびりしていますね。まぁ、別にいいですけど」
わりと冷たくて意地悪な言い方。その裏には嗜虐的な悦びがあるけれど、本人がそれに気がつくのはもう少し先のことかもしれない。
「……次から頑張る」
「全く反映される気配がないのですが。そもそも体内時計が狂い気味ですからね、乃子さんは」
「……」
言い返せない。……たぶん、言い返せない。言い返さない。
困った顔で若君を見上げる。身長が高くて姿勢もいいから、顔がすごく上にある気がする。
「もっと可愛く謝ったら許して差し上げても構いませんが」
「……若君のいじわる」
「冗談です」
そっけなく肩をすくめる若君。
……いじわる、だけでも男の子はコロッといっちゃうけどね。可愛い拗ね方は、いじめたい側の人には有効。結果として若君はほくそ笑んでいるし、それを隠すために背を向けた。
「日没が始まるまで、あと30分……ってところですかね」
長袖のワイシャツを少し上げて、若君は腕時計を確認する。反対の手にはカメラ。
「きっと今日は見つかるよ」
お化け。
もしくは幽霊。
でなければ、学校の怪談。
そう。
私と若君の出会いは、そんな胡乱なものがきっかけだった。
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