▼ ああ 窓に 窓に(おわり)
「若君、オカルトって本当に面白いかしら?」
私は、今まで思っていても言えなかったことを口にした。
オカルトなんか面白くない。ーー本当は、心の底では、そう思っていたから。
「なぜ、今、そのようなことを聞くんですか?」
「今しか聞けないから」
「今、そんなことを聞かれてもしょうがないと思います」
「そうだね」
切羽詰まった状況だけど、私たちは落ち着いてきた。来るべきものを穏やかな気持ちで待っていた。
窓の外の暗闇はガタガタと鳴る。
***
琴梨ちゃんが何かを叫んだ。何の言葉かはわからないけれど、多分、雀の呪文と同じものなのだろう。フワフワゆらゆらいあいあとした不安定な響きが似ていた。
それから、記憶がない。
***
夢を見ていた。
ジロちゃんが寝ている夢だった。
私はジロちゃんを起こしちゃいけないのに
***
気が付いたら若君が私を抱きしめていた。
見慣れた部室は、カーテンも引いてないのに真夜中みたいに真っ黒だった。
……そして、冒頭へ。
「若君、私たち、どうにかなっちゃうのも時間の問題だね」
「……怪談は、朝になれば助かります」
「怪談ならね」
「じゃあこれを何だって言うんですか」
「か、み、さ、ま。なーんて」
若君は黙ってしまった。
私は若君の真っ直ぐの髪の毛をいじった。サラサラで、なんか気持ちいいから好きだ。
「今、何時でしょうか……」
「時計、止まってる。まるで時間がないみたいだね」
「時の流れが止まっているのか、俺たちに残された時間が少ないのか、解釈が難しいところですね」
「ロマンチックじゃない? なんか色々しようよぉ」
耳元にささやきかける様に。
「そういうのはネット的に言うと死亡フラグなんですよ。ホラー映画の定石じゃないですか」
「若君ったら。もう諦めた方がいいって」
「最後まで油断しない、諦めないことが勝利の秘訣なんです」
「あらかっこいい。私、本質的には刹那主義だから今までそんな秘訣知らなかった」
窓がキィキィ言う。嵐みたい。
焦れったくなって、怖がる様にぎゅうっと私を抱きしめる力を強める若君を押し倒す。……ちょっと背中痛かったかな。ごめんね。
「っ……何するんですか」
若君がびっくりしたあと睨みつけて来た。だけど敵意バシバシじゃなくて、嗜めるみたいに優しい睨み方だ。
「若君、私に騙されてみない?」
「騙される……?」
「そう。今から、嘘つくから」
っていうか襲います。肉食系女子になります。……時間、なさそうだし。
チラと見上げた窓の外は暗い。いや、黒い? 闇が、蠢いているように見える
「乃子さん、窓に」
若君の台詞を遮る様に、私はキスをした。
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