▼ 終末に向けて
なんとなしの終末感。
そんなものが、私の周りには……いや、もしかすると、世界全体に満ちていたのかもしれない。
それはとても穏やかで、悲しいもののように思た。
「ねえ、乃子ちゃん」
琴梨ちゃんはほの暗い静粛な瞳で私を見つめる。相変わらず派手だけど、言動は暗さで統一された。友達は相変わらずできないし、みんなにも好かれていない。だけど私は仲良くしてあげている。
「もし明日、世界が終わるとしたら。どうする?」
「変な話題。そうだねぇ、私の場合は言わずもがななんじゃない?」
「だね。いいな、羨ましい」
「琴梨ちゃんはどうするの?」
「私? 私は……宍戸君たちに助言したいな。それが幸せなのか、不幸なのか、わからないけど。でも、そうだよね、ただの嫉妬だもん。私は愛されないのに、彼女は愛される。そんな理不尽に対する不服みたいな……ともかく嫉妬でしかないから。だから誰が幸せとか不幸とかどうでもいいのかもしれない。なんだか、乃子ちゃんと似てるかも」
「どうなんだろね」
そこでふと、ある人の陳腐な例えを思い出して。
「私たち、魔女なのかな?」
「魔女? 何の話?」
***
亮君はほとんど喋らない人になっていた。見つかった時に雀が死んでいたら、後を追って死んじゃうんだろうな。鳳君まで一緒にいなくなっちゃったんだもん。そうなって仕方がないよ。
今の雀? と、鳳君?
うん、そうね。内緒。亮君の明日の為に一生懸命隠そうと思う。
***
「お前は何を知っている。何を企んでいる」
跡部君は怖い顔をしていた。リアルにびびる。いやだって私ってただのメンタル持ちの女の子だし……別に強い訳じゃないし……。
「そんな……何が? って感じなんだけど……怖いよ、跡部君」
「しらばっくれんなよ。俺は雀を隠したのはお前だと思っているんだ」
「違うよ。友達だもん。第一アリバイだってあるし……そんなこと言われるなんて悲しい」
「友達? ハン! てめぇがあいつのことどう思ってたかなんて見え見えなんだよ!」
「……?」
押しが強くて証拠がないやつにはシラを切ればいい。
真実が何も見えていないのだから。
そのほうが、幸せじゃない?
***
鳳君と雀は死んだ。
ジロちゃんと私は、その一部始終を見ていた。
「呆れた」
ジロちゃんが呟いた。
「あんなに宍戸とラブラブだったのに、鳳に寝返っちゃうんだからなぁ。しかも話は電波で半分も理解できないし」
「寝返っちゃうのは仕方ないよ。女の子っていつも加虐される側だから、そうでもしないと。それに、ストックホルム症候群とかあるし……もしかすると、こじらしちゃうまで想われるのが嬉しかったのかもしれない。それまで愛されたことがなかった子なのかな」
「よくわかんないなあ。宍戸、カワイソ」
そして、ジロちゃんは私を見て、ちょっと笑った。
「乃子ちゃんは俺になびいてくれちゃったりする?」
「まさか。ジロちゃんも好きだけど一番じゃないよー」
「やっぱり。残念」
ケラケラと空笑いをするジロちゃんはどこか虚無的だった。何か、見えているのだろう。
「ねえジロちゃん、怖くない?」
「何が?」
とぼけたような返事。
「なにか。とりとめもなく、病的で、深淵で、冒涜的で……」
「嘲笑されているような、感覚?」
「そう、それ。よくわかったね」
「俺もなんかそんな感じの……なんとも言えない感じが時々、ある」
「怖いよね」
「……乃子ちゃんはそれを日吉にいえばいいじゃん」
「……だって、わかってくれるのはジロちゃんだけだもん」
「嬉しいんだか悲しいんだかよくわからない!」
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