▼ つまらない話
あるところに、いました。
お姫様。
魔女。
妖精。
それから……
貧乏な小国の王子様。
貧乏王子様の腹心の家来。
お金持ちの大国の王子様。
お金持ち王子様の沢山の家来。
最後に、神様。
お姫様は、最初、普通の信心深い灰被りの女の子でした。
女の子は神様にお祈りをしました。お姫様になって王子様と結婚式したい!
神様は女の子の願いを聞き入れて、お姫様にしてあげました。
お姫様になった女の子はたくさんの王子様から愛されました。
その中でも二人、貧乏な王子様とお金持ちの王子様が一生懸命でした。
お姫様は悩んだ末に、貧乏な王子様を選びました。選ばれなかったお金持ちの王子様も、健闘を讃えて二人を祝福し、応援しました。
そこで、魔女の登場です。
魔女はお姫様のすぐ傍にいました。
そう。魔女もまた、お金持ちの王子様の家来だったのです。
お金持ちの王子様はとても勘が鋭い人なので、家来に魔女がいることは気がついていました。
しかし、魔女は、お金持ちの王子様の家来になったとき、既に悪いことをする気持ちを失っていました。
魔女はお金持ちの王子様の家来の一人の神官に恋をしていたのです。そして、神官もまた、魔女に恋をしていました。
彼らは、それぞれの幸せをもって、幸せに暮らしていました。
ですが、ある日、彼らの元に、神様の遣いの妖精がやってきました。
妖精ははぐれものでした。だから神様に、友達を作って欲しいとお願いしたのです。
もちろん神様は願いを叶えます。しかし、神様はただで願いを叶えてくれるのではありません。信心深くなる、覚悟と代償に願いを叶えるのです。
妖精はみんなに愛されるお姫様になるため、今のお姫様を殺さなくてはいけませんでした。
しかし、妖精には、覚悟が足りなかった。
妖精は力つきて死んでしまいました。
魔女は、そのことを面白く思いました。惚気ても魔女は魔女でした。
そこで、魔女は獲物を自分から探すことにしました。
ちょうど手頃な獲物がいました。
貧乏な王子様の腹心の部下は、貧乏な王子様のお姫様が好きでした。
貧乏な王子様の腹心の部下には、立場がありました。そして何より、部下は王子様を尊敬していました。
だから、彼の恋は叶いませんでした。彼もそれは仕方のない事だと思って、諦めていました。
だけど、一度火の付いた恋心はどうにもなりません。例え苦しく、報われない恋だとしても、お姫様のことを想い続けていました。
魔女が、貧乏な王子様の腹心の部下に忍び寄ります。そして、囁きます。
魔女の言葉には魔力がありました。魔力の言葉は彼の心を蝕み、やがて、一つの信仰へと導きました。
貧乏な王子様の腹心の部下は、次第に神へと傾倒していきました。
魔女は自らの魔力のみで彼を導くつもりだったので、計算外の事態でした。魔女といえども神に関わり、対抗するほどの力はありません。
魔女は諦めました。
しかし、自ら手を下さなくなっただけ、魔女にとっては有利だったのです。なぜならば、彼女が恋しているのは神官……神に使え、神を研究する清らかな人間だからです。
魔女は水晶を使い、離れた場所から彼らを静観することに決めました。
お姫様を愛し、叶わぬ恋に身を焦がす貧乏な王子様の腹心の部下。
彼は貧乏な王子様を裏切り、神の御下へと身を投げました。
愛したお姫様の亡骸を抱きしめて。
愚鈍な貧乏な王子様は裏切りに気が付かず、二人の死を不幸な事故として嘆き悲しみました。ほとんどの人がそうでした。
しかし、魔女と、お金持ちの王子様と、彼の部下の神官だけは違いました。
魔女は水晶で全てを見ていました。
お金持ちの王子様は魔女を疑っていました。ですが、彼の推測は半分ほどしか真実を得ていなかったのです。もちろん証拠もなく、魔女を火あぶりにすることができませんでした。
魔女が火あぶりにされなかったのは、神官の庇いだてもありました。
神官は魔女の姿に薄々気が付いていましたが、取り返しのつかないほどに彼女を愛してしまったのです。止めようにも、人の不幸が彼女の餌であることも理解しています。ですから、庇うことしかできませんでした。
国は深い悲しみに包まれました。
それにより魔力を増した魔女は、死せる混沌の目覚めが近付いていることを察知しました。ですが、あえて口を閉ざし、いつも通りの暮らしを続けて、幸せを享受することにしました。
眠りの刻が近付いています。
魔女は神官に言います。
もし明日、世界が終わってしまったら。
神官は冗談として彼女の憂いを笑い飛ばしました。
魔女は、笑いました。
明日、神が目覚め、彼らは深い眠りにつくのです。
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