てにす ルル | ナノ



▼ フリーズ

「……あれ?」


 目を覚ますと保健室のベッドで、脇にいたジロちゃんが私の髪をすくように頭を撫でていた。

 ……?


「私、なんでここに?」


 記憶がふっつりと途切れている。

 思い出せない。頭痛い……。


「屋上の、階段のトコで倒れてた」

「屋上……?」


 ……わかんない。午後からの記憶がすっぱりと消えている。いらないことばかり覚えているのに、こうやって抜け落ちてしまうと気持ち悪いものだ。


「さっき、夢を見たんだ。屋上の階段を登ったら乃子ちゃんが落ちてきて、嫌な感じがしたから来てみたら倒れてた」

「……出歯亀が役立ったね。ありがとう」

「素直に誉めてよ! いじわるー!!」


 頬をみゅーんと引っ張られる。

 お約束なので「ふににににに」とか言う。

 パッと手が離される。頬っぺた擦る。


「私、階段から落ちたの?」

「見てないけど落ちたんじゃない? 思い出せないの?」

「うーん? 思い出そうとすると……なんか気が狂いそうになる」

「いつも通りの乃子ちゃんじゃん?」

「人をキチガイみたいに言わないでよ!」


 ジロちゃんの背中バシーン。


「んー。ああああうあー。駄目だー思い出せないよー。気持ち悪いからもう止めた」


 思い出そうとすると、全身の細胞が鳥肌立つようにざわざわとする。危機感しかないから止めることにした。思い出したくないことなんだと思う。


「ねー乃子ちゃーん」

「ん? なに」

「ここまで運んだ俺になんかご褒美ないのー? ぱふぱふとか……」

「平手とか?」

「おっぱいで叩かれるならそれはそれで……」

「このおっぱい星人め!」


 手の甲をつねってやる。


「いたた、酷い! 酷いよ! 俺はこんなにも頑張ったのに!」

「助けてもらったことは認めるけど若君専用だから簡単には貸せませんー」

「ずるい! 日吉ずるい!」


 つか、先生いないのかしら。こんな大声で話しちゃってるけどいいのかな。

 疑問がフッと沸いてきたとき、ドアが開く音がした。


「……ほら、具合悪い人が来たかもしんないから、静かにしようよ」


 と、逃げ腰の提案をする私。


「え? バレないようにするんじゃないの?」

「馬鹿」


 鼻をつまむ。苦しめコノヤロー。


 シャッ。


 ……と、カーテンを引く音。

 と、若君。


「……なんで乃子さんと芥川さんがここに?」


 驚愕。疑惑。嫉妬。怒り。悲しみ。


 ……やっば。勘違いされてる。


「ジロちゃんが倒れた私を運んでくれたの。若君はどうしたの?」

「絆創膏もらいに来たんですよ。それより乃子さん、浮気ですか?」

「浮気じゃないよ」

「浮気なんですね?」

「違うってば」

「浮気は許したくありませんって前にも言ったじゃないですか」

「だから、私の話を……」


 なにを思ったか。ジロちゃんが私に抱きつく。


「浮気ー! っていうか、これが本命?」

「馬鹿!」


 思い切り叩く。いい音がした。その上、若君がジロちゃんの背中を掴んでひっぺがした。


「俺の乃子さんに触らないでください!」


 咄嗟に出た言葉が嬉しすぎて胸キュン! そんな怒った顔で言ってくれるなんて! もっと独占して!


「おわっ! 武闘家のくせに乱暴だっ!」

「譲れないこともあるんですよ!」

「ちぇっ……ろくに手も出せない癖に……」

「あなたにとやかく言われる筋合いはない! もう乃子さんに近付かないで下さい!」

「べーっ。じゃあね、乃子ちゃん」


 日吉に舌を出し、私に手を降り、ジロちゃんは足早に去っていった。部活が気まずくなるぞ……。


「さて、乃子さん」

「若君の目って、本当に涼しげよね」

「ありがとうございます。……で。ちょっと、お話したいことがあるのですが」


 わりと、本気で怒っているみたい。怖くてなんだかときめいちゃう。私、どっちもいけるから。

 放課後の保健室だし、先生いないし、うまく誘導すればもしかしたら……なーんてね。

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