てにす ルル | ナノ



▼ 幽体離脱で神の目線

 なぜだか、琴梨ちゃんは私のことを怖がっている気がする。時々合う視線が怯えている。


「この辺、静かなんだよ」


 中庭に誘導する。

 あのまま教室にいさせるのも可哀想な感じだったし、聞き耳を立てられている中では話せない話のような気もするし。何より、若君の耳に入ることだけは阻止したい。


 私が琴梨ちゃんに聞きたいことは、二つ。

 レギュラー陣をどう思ってる?

 雀のことを、どう思ってる?

 謎解きにはまったく関係のない話だ。彼女の行動の理由は呪いを解くことだけど、それと個人感情は別である。単なる興味でしかない。


「ここにする?」

「うん、いいよ」


 適当にお弁当を広げ――ようとして、健やかないびきに気がついた。


「ん?」


 これはジロちゃん?

 音をたどっていくと、やはりジロちゃんが転がって寝ていた。木の影で。


「またこんなところで寝てる……授業サボって寝てたかな、この調子だと」


 隣にしゃがみ込む。無防備な寝顔だ。野生なら死ぬ、確実に。
 琴梨ちゃんはおずおずと私の後ろから声をかける。


「乃子ちゃん……起こすと怒られるよ……?」


 キレられた経験ありか。たまにキレるんだよね、起こされると。


「へーきへーき」


 私はまだ怒られたことがない。


「ジーロちゃん。ジロちゃーん。おきておきてー」


 頬っぺたをプニプニと突っつく。ジロちゃんの頬っぺたは柔らかい。若君は固いんだよね……あれで頬っぺた柔らかかったら笑えるんだけど。

 ジロちゃんの眉が微かに寄る。


「ん〜……」

「お、ひ、る、だ、よー。お腹すいてない?」

「すいた〜……」


 ダルそうな声。うっすらと目が開かれる。


「……あ、乃子ちゃんのおっぱい」

「私より胸が先なの?」

「だって俺、おっぱい星人だもん……ふあぁあ」


 のっそりと体を起こすジロちゃん。大あくび。


「あー……教室に弁当取りに行くのめんどくさいな〜……もう食べなくてもいいかな……」

「よかったら私のお弁当食べる? 私の手作りだから、申し出が憚られるんだけど」

「マジ? 食う食う」


 ちょっと目が覚めたみたい。なんかよく知らないけど男の子って女の子の手作りを妙にありがたがるよね。なんでだろ。料理下手な人とかいるし、普段やらない子がいきなり作りたがるときってとんでもないことになるのに。私は若君のためにスキル磨いてるからそこそこ作れるんだけどね。


「……持ってきたよ」

「ありがと、琴梨ちゃん」


 うまく空気を読んだ琴梨ちゃんはパシられてくれた。可愛くて従順な子はいいかも、好き。

 ジロちゃんは「あ、いたの?」と、極めてクールだった。


「ねーねー乃子ちゃん、食べさせて。あーんってやって」

「だーめ。甘えないの。私は若君専用なんだから」

「ちえー。いいなー日吉。乃子ちゃんのおっぱい好き放題だもんなー」

「あら。若君はジロちゃんと違って真面目だからそんな性的じゃないよ」

「うわーっ! もったいねー!! 俺だったら絶対揉み倒す! 日吉は男として間違ってる!! こんないいおっぱいの独占権を持っているのに……!!」

「きゃっ、恥ずかしい。でも揉ませてあげないからね」

「ちぇー」


 口が3の字。


「きっと『今日ノンブラなの』とかやったら日吉もやる気出すよ」

「うまくやらないと怒られそうな気がする……」

「そこは乃子ちゃんなら心配ないっしょ。超策略家じゃん」

「そんなことないもーん。純粋中の純粋だもん」

「またまたぁーそんなこと言っちゃって。雀ちゃんほっといて琴梨ちゃんと飯食いに来てるやつの言うことじゃないだろー」

「え?」


 寝てた人が、その場にいない人が、なんでそのこと知ってるの?


「……あれ? 俺、なんか変なこと言った? ……あ、言ったか、そうだよな。なんで俺、知ってんだろ?」

「自分でもわかんないの?」

「うん、なんか知ってた」


 きょとんと頷くジロちゃん。そこに恐怖や驚きはなく、あるがままを受け入れただけのようだ。


「他に何か知ってる?」

「他? って言われてもな〜……あ、そいつが嫌われる体質とかっていう話は? 俺は体質とか関係なくあんまり好きじゃないんだけどね、乃子ちゃんが好きなくらいだから」


 琴梨ちゃんを指差すジロちゃん。


「……今、雀がどうしているかわかる?」

「さぁ。それは知らない」


 なるほど。寝ている間にしか見れない……のかもしれない。現状から推測すると。


「もしかすると、これが『神が神を自覚してない』ってやつ?」


 それを言ったのはジロちゃんだった。

 思わず肩が跳ねた。


「どこまで知ってるの!? っていうか、見たの!?」

「え? ん〜……ヒミツ」

「最低!! 最低、最っ低!!」


 思わずジロちゃんの頬を思いっきり叩いてしまった。いい音がした。


「った! ……しょうがないだろ! 見えるもんは勝手に見えるんだから!!」

「それでも覗かれたら嫌じゃないっ!」

「俺なら見せつける! だって乃子ちゃんだから!」

「それはジロちゃんの立場でしょ! 私は! ヤなの!!」

「じゃあ俺に見せればいいよ! イチャイチャラブラブでノンガードでちょっと誘ってるエロ可愛い乃子ちゃんを!!」

「バカ!!」


 今度は反射じゃなくて、殴った。


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