てにす ルル | ナノ



▼ あの子はきっと

 ――みんなに好かれる体質。

 私はだいたいいつも雀の隣付近にいる。だから、客観的に彼女を観察したい今、一歩距離を置いて雀を眺めている。

 雀。

 クラスメイト。

 女子。男子。

 やっぱり心配で顔を見せる亮君と、なんか跡部君もいる。鳳君は亮君の側に。樺地君は跡部君の側に。そして、その後ろにこっそりとつけて回る忍足君、向日君、滝君……出歯亀かしらん。目があったから手を振ったら、忍足君と向日君はしーってジェスチャーをして、滝君は愛想よく笑って振り返してくれた。


「よ、雀。飯食いに行こうぜ」

「俺様の誘いを断るなんざあり得ねぇよな? アーン?」


 先手、宍戸。後手、跡部。断られたからフられたなんてツッコミは野暮かしらん?


「……構わないでよ。ウザいんだけど」


 呆れた顔で二人を見上げる雀。まぁ、いつも通りの異常なしって感じ。ある意味クールだから。


「おいおい、今日は俺様もいるんだぜ? しょっぱい庶民の宍戸だけじゃなくてよぉ」

「つか跡部、お前なんでいんだよ。激邪魔」

「そうですよ跡部さん。フられた人は黙って身を引いた方がいいです」


 鳳君の援護射撃が容赦ない。これを悪意を持って言ったとしたら怖いし、天然だとしたら救いようがない。この間のことで、天然を装った悪意を確信をしたようなものだけど……。

 跡部君の顔がピクリとひきつった。しかしすぐに持ち直す。さすがキング。傷付いても尚君臨するのか……。


「ハン! 飯食うのにそんなの関係ねぇよ。だいたい、それなら鳳も空気読んで二人きりにするべきだろう」

「た、確かに……!」


 ハッとする鳳君。今気がついたのか。――本当に? まぁ、いいや。


「わーったからお前ら止めろ。雀がどこかに行く前に」


 亮君は、お弁当をまとめて逃げようとしていたしゃんたを言葉で制す。

 ギクリと止まる雀に、どこか勝ち誇った顔をする亮君。やっぱり彼氏だね。


「行くぞ。……と、糸川は?」


 よく通る亮君の声が飛んできた。ちょっと離れた場所だから大きめの声だ。……まぁ、亮君は普段から大きめなんだけどね、声。野球部に比べたら静かだし、口数も多くないけど。


「いってらっしゃい」


 ニコニコしながら手を降る。今日は別の人と話したいから。跡部君はあんまり私のことが好きじゃないみたいだし……例のインサイトってやつかな?


「もー、やめてったら……」


 雀は亮君の手を振りほどこうとする。

 そこに、割り込む人。


「雀ちゃん」


 みんなの視線が集まった。雀の周辺は派手だから、まさにクラス中の視線だった。

 琴梨ちゃんは真っ直ぐに雀を見ている。本当に、真っ直ぐ。その両目が少しほの暗く見えるのは、彼女の引け目か、それとも、元来持っている劣等感か、雀への感情か――私にわかるはずもない。


「心配してくれてるんだから、行かなくちゃ駄目だよ。せっかく来てくれてるのに、そんなの失礼だよ」


 雀は目を見開いて。

 亮君と跡部君は訝しさと警戒で目を細め。

 外の三人は顔を見合わせて。


 琴梨ちゃんの言ってることは正論だと思う。

 だけど、彼女を嫌っている人が聞いたら、どう聞こえるだろう?

 妬み、かな?

 もし本当に妬みから出たとしても、言ってることは正論だ。と、思う。

 ……場が白けちゃうし、部外者なのも事実だけど。


 変化が起こった。


 雀の顔が、血が引くようにサッと青くなった。


「あ、おい!?」


 机にぶつかりながら走り去る雀。亮君が言葉で引き留めるも止まらない。

 亮君は琴梨ちゃんを睨み付けてから雀を追いかけた。きっと、何かの脅しを含んだする言葉なのだと思ったのだろう。鳳君の目は本当に怖かった。亮君の後ろの人で良かったと思う。

 しかし、跡部君は何かを考えるように、難しい顔をした。そして私と目があった。首を傾げると、視線が逸れた。雀を追いかける。樺地君も。……いや、樺地君は跡部君を追いかけたのかな。

 廊下の三人組もそっちに行くようだ。


 琴梨ちゃんを問い詰めることより、雀が優先。全員。

 確かに愛されている。今の状況では順当かもしれないけど。


「……じゃあ、お昼いこっか?」


 私は琴梨ちゃんに笑いかけた。琴梨ちゃんは予想外のところから予想外の言葉をかけられたみたいで「ほへっ?」と間抜けな声を出していた。


 雀のことは、後でいくらでも情報を集めることができる。今、面倒くさいごっこ遊びに混ざることはないだろう。私の立場では出歯亀トリオの中に入ることは許されないし。

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