てにす ルル | ナノ



▼ 相談

 どうやら、琴梨ちゃんが雀をこっそりいじめているみたい。なんで雀が私に相談してこないかはわからないけれど、もしかすると、私が琴梨ちゃんの味方だと思われているのかもしれないし、雀が何らかの弱味を握られているのかもしれない。

 だけど、亮君には言いにくいよねぇ。


「俺はどうしたらいいんだろうか……」


 亮君はすっかり頭を抱えていた。

 屋上。「雀のことで相談がある」と言われたので、静かで人のいない場所を選んだ。階段上がらなくちゃいけない場所にわざわざ来る物好きなんか少ないよ。景色がどうこうなんて言っているのは物珍しい最初だけだ。冷暖房完備の室内の方が過ごしやすいに決まっている。


「ちょっとしたことですげー謝ってくるし……泣きそうになるし……自信なさげで……俺、なんか悪いことしたかなぁ……」

「原因がわかんないよねぇ」

「宮北が来てから……なんだよな。でも、雀に聞いたら『違う、なんでもない』って言うんだよ」


 亮君はハッとして。


「まさか、誰かに脅されてんのか?」

「私もちょっと思った。でも、どうなのかな」


 詳しいことはわからない。だけど、気になることはある。


「やっぱり、雀の自信亡くしっぷりが気になってしょうがないかなぁ」

「最近、口癖みたいに『私なんか』って言ってるもんな……どうすりゃいいんだか」

「やっぱり覇気のある雀が好き? みたいな?」


 亮君は照れた顔で、可愛らしく睨み付ける。私のまわりってこういうタイプ少なくないよね。みんな純情。


「悪いか?」

「いいんじゃないかな〜。二人はお似合いだと思うもん」

「おう……ありがとよ。……っと。とりあえず今はそれを置いとくとしても」

「じゃあ、提案ていあーん」

「なんだ?」

「もっと強引に雀を攻めてみたらどうでしょー。もちろん、エロい意味で」

「馬っ鹿野郎!」

「きゃん!」


 一喝されてしまった。


「亮君ひどーい……」

「ったく……真面目に相談してんのにロクな答え返しゃしねぇ」

「私なりに真面目なんだけどなー。女の子って、愛されてる〜って思うと自信出てくるもんだよ?」

「そうなのか?」

「さぁ? 私はそう思ってるんだけど」

「適当なのかマジなのか、激微妙だな……」

「激なのか微妙なのか、微妙なのが激なのか、わかりにくい言い方だね」

「揚げ足とんなよ」

「亮君、頭悪いからそういうの苦手だもんね」

「……怒りたい」


 亮君はため息をついてうつむく。怒れない立場。


「いじめられていたり、脅されていたりするなら、それは誰がやっているのか、心当たりはあるよね。亮君も。それで、多分、私たちが想像してるのは、同じ人」

「……だな」


 テニスするときみたいに真面目な目付きで、亮君は頷く。


「でも、早急に何か行動するのは正しくないと思うよ。例えば一方的に攻撃しちゃったりとか……」

「……俺はさっさとカタをつけたい。雀のためにも」


 そして、声を潜めて付け加える。


「あいつ、追い出したいし」


 亮君がそんなに敵意を露にするなんて珍しい。直接見ていないけど、琴梨ちゃん、そんなにえげつないのかしら。そこまで頭いい風には思えないんだけど。


「私は待てをかける。でも、行動するのは亮君の自由。私に相談した時点で、亮君のハラは決まってたって感じだよね?」

「まぁな」

「じゃ、適度に頑張ってね。とりあえずテニス部には迷惑かけちゃだめだよ」

「わかってらぁ」


 亮君はおもむろに立ち上がった。


「相談、乗ってくれてありがとよ。帰るわ」

「うん。ばいばーい」

「お前は帰んないのか?」

「もうちょっと風に当たってく」

「ふーん」


 興味なさそうな相づち。というか、関わりたくない相づち。少し交流の深い子は、私のメンタルが微妙なことをなんとなく臭いでわかるみたい。だけど私はそれを隠しているので、そっとしておいてくれる。


「とりあえず死ぬなよ。また明日な」


 鈍感なくせに、気の効く子だ。亮君はいい子。


「若君いるもん。死ねないよ。また明日」


 大丈夫であることを、笑顔で伝える。亮君は爽やかに苦笑という上級者なことをやって、背を向けた。片手を上げるのは亮君なりのかっこつけなんだろう。

 ドアを開く姿を見守る。


「ん? 日吉か。そんなところで何やってんだよ」

「……幽霊ウォッチングです。ほっといてください」


 ここからは見えなかったけど、声は聞こえた。そういえばその辺りにも出るらしい、とか、盛り上がって若干早口に言っていたことを思い出す。


「そ、そうか……糸川そこにいるから。じゃ、明日部活で」


 若干引き気味な亮君。スッと横にずれると、若君の姿が見えた。シャキッとしたお辞儀。


「どうも」


 こっちに向かってくる若君は、なんか神妙な顔をしていた。


「やだ、若君ったら、怖い顔。焼いてる? もしかして焼いてる?」

「……別に」


 プイッとそっぽを向いてしまった。

 さて、ご機嫌とらないと。

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