獣の恋 | ナノ
 Five night-@

 
 咽かえる匂いを充満させる薔薇に囲まれて、子供が泣いていた。
 汚れるのもお構いなしに地面に顔を埋めたまま、ひっくひっくとしゃくり上げる。大声も上げず、必死に声を押し殺そうとする姿勢が内気な性格だと察する。
 ずっと泣いてる子供もなんだか放っておけず、一歩前に踏み出す。

『おいチビすけ、【こんげん】は外で見せたらダメなんだぞ』

 背後から声をかけるとそいつは面白いくらいに飛び上がった。へたり込んでいた尻尾が一直線にピンと立つ姿は中々見物だ。

『……ぼくはちびすけというなまえではないです』
『オレよりチビなんだからチビすけなの、【こんげん】を出すのはハダカで歩くのと同じだって『よいこのまだらるい』で書いてあったぜ。それにおまえ《  》だろ、【こんげん】なんて出してたらワルいやつにさらわれちまうぞ』

 泣いていた割に声はとても落ちついている。しかし、泣き顔は見られたくないのか地面に顔を埋めたまま。なのに尻尾はビクビク震えてるからなんだか面白い。
 だけど、さすがに話しかけて顔を上げないのはどうかと思う。一向にこちらを見ようとしない子供に痺れを切らして近づく。

『お前って【こんげん】のコントロールできないの?』
『いまあにうえたちからおそわってるところです』
『ふーん、じゃあまだできないんだ』
『で、でもひとまえでは【こんげん】をかくせるようになりましたっ』
『だけどオレの前で見せてんじゃん』
『ううっ』

 ピンと伸びていた尻尾が力が抜けて再び地面へ逆戻り。また嗚咽が聞こえ始めたときにはさすがにいじめすぎたと反省した。
 全く泣き止む気配を見せない子供に面倒くささを覚えるも、自分の言動のせいであったから置いていくのも忍びない。散々悩んだ末に、頭を乱暴にかいて子供の前に立つ。泣いていて自分の存在に気づいていない子供の両脇に手を差し込んでひょいっと抱き上げた。
 驚きのあまり石化した子供を抱っこしたまま、その場で腰を下ろす。

『あ、あのっ……』
『【こんげん】のコントロールできなかったときかあさんがこうやってくれてたんだ、人のシンゾーの音に合わせてシンコキューするとふしぎとおちついてくるんだって』
『しんぞうの、おと……?』
『そ、ゼッタイもどるからお前もやってみろ。いまからオレに合わせて息してみ、ほらすってーはいてー』

 子供が口を挟まぬように深く息を吸って吐き出す。子供は最初戸惑った様子を見せながらもやるまで離さないのを察したようでおずおずと自分に合わせ始める。
 暖かい日差しの中、しゃくり声はいつのまにか消えていた。吐き気さえあった薔薇の匂いもいつのまにか気にならなくなっていた。

 * * * *
 
 身体が波打つ感覚によって夢は唐突に終わりを告げる。
 重たい瞼を無理やり開く。そこは見慣れた天井ではなかった。もう何度もお世話になっているバスルームだ。波打つ感覚の正体はバスタブの湯だったみたい。
 丁度いい温度が体中を包み込む心地よさに目を細める。この温かさでまた夢の世界に旅立ってしまいそうだ。けだるさが残っているせいで動く気も起きず、このまま眠るのも悪くないと再び瞼を閉じようとしたら頭上から声が落ちてくる。

「起きたのかねナマオ」

 湯の温度に似た心地のいいテノールボイスが聴覚を刺激した。脳まで達した途端、一本釣りのマグロみたいに意識が一気に引き上げられる。顔を上げなくても誰かはすぐに分かった。

「……クラウス、一つ質問いいか」
「なんだろうか」
「なんで俺達風呂に入ってるんだ?」

 ついさっきまでベッドとお友達してたというのになぜだか二人で仲良く風呂に入っている。さらにいえばクラウスに後ろから抱き締められている態勢を取っている。腰に腕を回してガッチリホールドしてる時点で逃がす気ゼロだ。
 成人男性二人、片方2m近くのガチムチとなれば窮屈になるだろうがそこは高級ホテル、図体の大きいクラウスも足が伸ばせるくらいの広さで二人でゆったりと肩まで浸れることが出来る。ってそんなホテルの優しさ設計は今はどうでもいい。問題はなんで二人で風呂に入ってるかだ。
 状況が把握しきれずに浮かんだ疑問を素直に投げかけてしまう。言葉を濁すクラウスの態度が聞いてはいけないやつだと気付いたときにはもう遅かった。

「その、途中で君が意識を飛ばして」
「うんわかった、把握したからそれ以上いわなくていい」
「そうか」

 クラウスの一言だけで全てを理解できてしまえば嫌でもつい先程までの出来事が蘇ってしまう。
 あのあと、クラウスとは『ブリーリングらしい』時間を有意義に過ごした。簡潔にいってしまえば『ただただヤリまくった』ともいえる。
 時間は沢山あるからと、雑談交じりで始めた情事。
 好きなものはギルベルトが淹れた紅茶、趣味はプロスフェアーと園芸、兄弟は上に兄が二人いる。雑談の中でクラウスの事を沢山知ることが出来て内心嬉しかったのは内緒だ。でもどんな仕事をしているのかと尋ねた際に「秘密結社のリーダーを少々」と答えたときはさすがに笑った。こんな堅物でも冗談はいえるらしい。
 先に話した話をしながらお互いを知っていくを実践しようとしてくれたのか、談笑しながらのセックスは驚くほどリラックスさせた。一日空けたブランクを埋めるようと壊れ物を扱う手つきがさらに緊張を解してくれる。一度はあの戦艦を受け入れた優秀な身体はクラウスをちゃんと憶えていたようで最初と同じで念入り且つ時間をかけて再び繋がるのに成功した。一回繋がってしまえばそのあとはもうなし崩しだ。昨晩から待てを強いられてた分、OKを出したクラウスの食い付きは尋常じゃなかった。最初の紳士っぷりはどこへ行ったのやら、泣こうが喚こうがお構いなしで好き勝手されました。
 時間の感覚なんてとっくに狂い、ただただ欲望のままに情事に耽った結果、ギブアップして失神したのだろう。だろう、というのは意識を失った記憶がないからだ。最後に憶えているのは出さずに絶頂迎えたショックでベソかく自分を慈しむように、けれど興奮を隠さない獣の瞳だけ。
 最後の光景を思い出し、ぶるりと身震いすれば湯が波打つ。湯の振動にいち早く気付いて身体を気遣うクラウスはつい数十分前まで自分を貪っていた男と同一人物とは思えない。あまりに穏やかな声で心配されるもんだからさっきまでのは夢だったのではないかと疑いたくなる。もし夢だったら今すぐ頭から潜って入水自殺するしかなかったが昨日よりも増えた鬱血や噛み痕のおかげで免れた。免れたところで心は全く軽くはならないけれど。

「……もしかして後処理もやってくれたのか」
「君が気絶するまで行為を強いた私に原因がある、当然の事をしたまでだ」
「ワァーアリガトウゴザイマスー」

 一度も外に出さず、散々中に出されて膨らんだ腹は風船が萎んだみたいに元に戻っていた。意識を失っているから何をされたのか一目瞭然だ。後ろの男に気絶してからも好きにされてたなんて面映ゆい気持ちでいっぱいだ。かといって起きてたら起きてたで穴に入りたい思いに駆られていただろう。実際穴に入ってきたのはクラウスなんだがな。
 さてそんな冗談は置いといて、さっきから自分の腹を撫でてる男に意識を戻そう。起きてからすぐに気付いてはいたが自分の体を労わってのことだろうとあえてスルーしていた。だがさすがに腹擦りすぎではないか。これが性的な触れ方なら色々言い返せるものの、いやらしさ0でただ撫でるだけなものだからやらしい気分になるどころかくすぐったさを覚える始末。顔が見えずともご機嫌なのは何となく分かるからさらに訳が分からない。これ以上放っておくのも酷だと判断してクラウスに訊ねた。

「さっきから腹触ってどうしたんだ、あんたほどじゃないがそれなりに体鍛えてっから出ねぇぞ」
「ム、すまないそうではなく……ただ、楽しみで仕方がないだけなのだ」
「楽しみ?」

 何が、と聞こうと顔を上げればクラウスとばっちり目が合う。つい先刻まで自分を見つめていた斑類は消え去り、理性的な人間の瞳に戻っている。鋭い目つきが三日月の形を模り、慈しむかのような優しげな眼差しを自分に向ける。厳つい見た目から想像できない柔らかな表情に不覚にも頬が熱くなる。

「産まれてくる子供は一体どちらに似るのだろうかと、出来ればナマオに似たらいいと、今からとても待ち遠しくて」
「……」
「ナマオ?」

 冷水を頭から被るかのように上がりかけた熱が一気に引いていく。
 返す言葉も見つからず、黙り込んでしまった自分にクラウスが心配げに顔を覗き込んでくる。

「もしやどこか気分が悪いのかね?」
「や、大丈夫……」

 決して逆上せたわけではない眩暈に苛まれながらクラウスから視線を外す。

(そっちかーそっち考えてたかーそうだよなー俺を孕ませるためにあんなに注いでたもんなー)

 決して忘れていたわけではない。わけではないのだが、こうも慈愛に満ちた瞳で見つめられてしまうと罪悪感という棘がチクチクと良心を刺激する。
 クラウスは知らないのだ。
 俺が、懐蟲を仕込んでいないのを。
 つまりクラウスがどんなに中出しをしても子供なんて出来ない。出来るはずがない。
 女の斑類が泣いて欲しがる重種様の子種を無駄打ちさせてしまってるのには申し訳ないとは思っている。だからといって、親父が孫欲しさに勝手に決めたブリーリングで1000万チャラのためとはいえ子供を作る覚悟はなかった。それが不運にも惚れてしまった相手でもだ。

(そりゃあ斑類は愛より繁殖主義だけどさすがになぁ……産ませるのは無理・・・・・・・・だとしても自分で産むのとなると話は別っつうか……) 

 ちらりと風呂の中を盗み見ると未だクラウスの手は自分の腹に当てたままだ。擦ったところで大きくならないのだから無意味でしかない。ここまできたらいっそ本当のことを伝えるべきか。
 今度は腹からクラウスへ視線を移す。相変わらずおろおろと自分を心配していた。自分の様子が変なのを気付いているのだろう、かといって何か言葉をかけるべきかと迷っているというのがありありと伝わってきた。これはあかん、すぐさま掌を返す。

「……俺は出来ればクラウスに似て欲しいかなぁー」

 なーんて、と冗談で終わらせるつもりがクラウスの周囲から花が咲いてしまったせいで冗談に出来なくなった。
 それから二人で今後も産まれる予定のない子供の話で盛り上がった。できれば見た目は俺に似て欲しいというクラウスと、中身はクラウスに似てほしいという俺。男女どちらでも構わないというのは意見が一致した。
 どうしてこんな話をしているのが不思議で仕方ない。だってクラウスとはあと二日もすればさよならするのだ。多分、というか一生会うことはないのはお互い分かっているはず、なのにこうして子供の話をするのだから益々クラウスの真意が分からない。

(こんな話をするくらいには俺のこと気に入ってくれてるってことなのかね……なんだかなー)

 惚れてしまった身ではあるがもしクラウスが自分を気に入ってくれてたとしても今の関係以上にどうにかなりたいとは思わなかった。
 重種と半重種なんて微妙なランクの釣り合いも含め、今まで会ってきた重種の中でも高ランクな重種様なものだから隣に立つには荷が重すぎた。相当肝が据わったアホかクラウスと同等の重種ぐらいしかつり合いが取れない。小心者で狡猾な俺としては甘苦い思い出と重種と寝たというステータスだけで十分満足している。
 好きだけど恋人にはなりたくない、矛盾しているのはとっくに自覚済だ。

「ナマオ、少し踏み込んだ質問をしてもいいだろうか」 
「なんだよいきなり……まあ別にいいぜ、なんでも答えてやるよ」

 ベッドの中で散々互いの話をしているのだから今更な気がするが、きっと雑談の延長だろうと判断してどんとこいと軽く胸を叩く。答える了承を得たクラウスは一言感謝を述べてから質問をぶつけてきた。

「まず最初に、ナマオは半重種と聞いている」
「あんたの前で魂元を曝したんだから知ってんだろ」
「うむ、そして半重種は国によって重種と同等の扱いを受けると聞いた」
「そうだな、一応俺の国でも半重種は重種に入るぞ」
「……ならばなぜ、ブリーリングを望んだのかね?」

 手持ちぶさのあまりつけられた痕を数えていたのがピタリと止まる。
 ついにこのときがきてしまった。いつ聞かれてもおかしくはなかったがまさかいま聞くか。孫の顔見たさの親父に嵌められて1000万を支払うのを阻止するために遥々HLまで抱かれにやってきました、なんていえるか。かといってもういい年だけど相手がいない、でも子供欲しいからブリーリング頼んだのカッコハートカッコトジ、といえるか。いえるわけがない。
 しかし、事情を知らないクラウスにとっては後者だと思っている節はある。ブリーリングを望むやつはだいたいそういう輩ばかりだ、そして俺の親父もその一人。

(一番の誤算はそのブリーリング相手に惚れてしまったことなんだが……どうすっかな)

 前者であれ後者であれ、どちらを答えてもクラウスの子種目的なのには変わりない。今更であっても心証を悪くしたくなかった。まるで最初の夜を彷彿とさせる。だが、いまはあのときとは違う。
 まさかこうなるとは誰が思っただろう。
 迷いの末に行き着いたのは、やっぱりあの夜と同じだった。

「……ノーコメント」
「ふむ、ならば質問を変えよう」
「えっ」
「重種と同等である半重種ならば種を欲しがる者は大勢いるはず」
「まあ、そうだな……」
「だが、君はあえて自分で産む選択をした」

 シンと浴室が静寂に包まれる。
 言葉を挟むのを許さない空気を感じ取って口を噤ぐ。

「ずっと疑問だった、半重種であるナマオがなぜブリーリングなど頼んだのか」
「それ、は」

 親父に嵌められたから、と口にするべきか躊躇う間にもクラウスが言葉を続けた。

「ナマオであれば人を選べたはずだ……しかし、今までの君の態度を見る限り、私の子種を望んでいるように思えない。むしろ、作る気がなさそうにも見えた。ブリーリングを求めた理由があるにしろ、魂元を家族以外に見せない理由も考えれば以前から子を作らない気持ちがあったのではないだろうか」
「……何がいいたいんだ」
「私は知りたいのだ、斑類の本能ともいえる『繁殖』を拒み続けた理由を」

 繁殖。クラウスの口から出た単語に血の気が引いた。 
 やはり自分がブリーリングに積極的でないのは気付かれていたか。そりゃあそうか、ブリーリングを望んでいる身でありながら行為に対して消極的となれば相当な鈍感でない限り気づかないわけがない。
 だからといって乗り気じゃない理由を聞いてくるのは卑怯ではないか。というかなんでそれを知りたいのか、益々訳が分からない。

「知ってどうすんだ」
「どう、とは?」
「俺たちはブリーリングだけの関係だろ、そこまで教える筋合いはないはずだ」

 苛立ちを隠す気にもならず、突き放した物言いをしてしまう。ただのブリーリングだというのに、どうしてそこまでずかずか踏み込まれないといけないのか。というか少しどころじゃないだろ。土足で踏み荒らしすぎだろ。
 これ以上詮索するなと意を込めて後ろの男を睨みつける。なのに、自分の精一杯のガンつけもクラウスはしれっとした顔で受け止める。

「確かに私たちの関係は繁殖をするだけの関係だ」
「なら」
「だが、同時に私はその腹の子の親でもある」

 ぐっと腹に触れる手に力が籠もる。腹の中には子などいないはずなのに、腹の内がキュッと締まった。

「たとえビジネスでしかない関係であっても、自身の血を受け継いだ子を産んでくれる相手を知るのは悪いことだろうか」
「悪いだなんて、そんなの契約違反じゃ」
「違反であっても、私はナマオを知りたいのだ」

 逃走を阻んでいた腕が離れる。腹から圧力が消えてほっとするも、今度は大きな手が自分の手に覆い被さる。

「許されるならば、どうか私に教えて欲しい」

 please。懇願を込めた声と共に口付けが落とされる。肌に食い込んだ牙が軽く項を噛まれ、食べられのではないかという恐怖感から身を竦ませる。しかし、恐怖を感じると同時に体温が上がっていく自分の体を呪った。今にも自分を喰い千切ると脅してくる男に抱かれた体は相手がクラウスというだけで過剰に反応してしまう。
 たった二度、重ねた回数は少ないはずなのに、クラウスの手によって作り替えられてしまった。再び火照る体を持て余し、反応しかける体を叱咤しようと拳を作る。爪を立てて痛みで誤魔化そうと試みるも、いち早く気づいたクラウスの手が握った拳に指を滑り込ませて掌を開かせる。そのまま指に絡ませられてしまったらもう諦めるしかない。

「っ、あんたのっ……そういうとこ、卑怯だ」
「卑怯とは」
「頼む振りして有無もいわさないところ、あんた相当周りに甘やかされてきたなこの重種様め」
「そのようなことは」

 顔が見えなくても声色だけで不本意だと分かってしまう辺り、自分の重症っぷりを再認識させられる。確認のために振り返ると鬼のような形相の男と目が合って思わず風呂の中でちびりかけた。うわっと腰が引きそうになるも、よくよく見れば顔には不本意とでっかく書かれている。あ、これ自覚がないパターンだとすぐに気付かされた。自覚がないのは自覚を与える隙もなく周りに甘やかされ続けた証拠だろう。職場の副官でさえ身体を気にかけて休みを与えてしまうのだからそれだけ周りに甘やかされ、もとい慕われているに違いない。
 熊のような厳つい見た目、逆らうのを許さない重種特有の傲慢さ、そのくせ末っ子気質のワガママっぷりを発揮する。ギャップにもほどがある。ありすぎて、つい許してしまう。
 ずるいよなぁ、なんて思いが口元の緩みに出てしまった。そのせいでクラウスの顔の凄みが増したもんだから反射的に逃げようとするのを再びがっちりホールドされてしまう。いうまで解放しないという意思表示にすぐに諦めがつく。
 どうせあと二日だ。惚れたところでこの先自分がこの地に降りることはない。ならば、話してもさほど問題ない、ものの数秒の間に判断して早々に白旗を振ってみせた。

「ああもう分かった、分かったよ……これ結構な地雷なんだから聞いて後悔すんなよ」
「心配はいらない、君の全てを受け入れる覚悟はとっくに出来ている。地雷処理も傭兵時代に経験済みなので安心してほしい」
「色々ツッコミたいことが多すぎるが今はやめておくぞ……そうだな、まず最初に訂正するのが一つある」
「?」

 握る手を空いている手でやんわりと離し、じっと自分を見つめる瞳から視線を外す。

「俺は子供を作らない・・・・・んじゃない」


作れない・・・・・んだ。


 ぴちゃん。毛先から滴り落ちた雫が音を立てて波紋を作る。
 クラウスの息を呑んだのに気づかぬ振りをして誰にも話さなかった秘密を打ち明けた。

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