MISUGI

『見つめ合うと 素直におしゃべりできない』
なんて某バンドが歌っていたのを思い出す。あの歌詞はあながち間違っちゃいない。

(いや、俺の場合……見つめられるが正しいんだけど)

ふっと笑って余裕ありありな態度取る俺、こと明王寺はここ一週間ほど前から視線を感じていた。
正確にいうと気づいたのが一週間前なのでもしかしたらその前ならその視線を受けているのかもしれない。
授業中なんてその視線が穴が空くほど背中に当たっている。それに気づいたのは偶然だったのだが、あんな熱い熱視線に気付かないなんて俺もまだまだだ。
そうこんな俺にだってモテ期が存在したのだ。やったね俺!万歳俺!

(……っていうのは冗談で、なんで七瀬俺のことずっと見てるの!?)

大声でそう叫びたいのをぐっと堪えて重い溜息を吐き出した。はあーなんて声も一緒に漏れてしまってあまちゃん先生に気づかれてしまう。

「どうしたの明王寺君、そんなに先生の授業憂鬱にさせちゃうかしら?」
「えっ!?そ、そんなことないよあまちゃん先生!」

慌てて首を振って否定するとあまちゃん先生から罰として立って音読させられる羽目になって。周囲からも笑われていい見世物だ。恥ずかしく思いながらも渋々音読をするために教科書を持って立ち上がる。
その際にちらりと何気なく後ろを振り返ってみた。一番後ろの窓際の席、そこに座っているやつとばっちり目が合った。まさか目が合うと思わなくて驚いて目を丸める。相手も一瞬目を丸めたがすぐに視線を外して窓の外に目を向けた。まただよ。ひくりと口元が上がる。

(やっぱ、あの視線七瀬に間違いない…よな?)

そう、ここずっと向けられる熱視線の相手は残念ながら女子じゃない。自分と同性、つまり男子生徒の七瀬遙からの視線だったのだ。
クラスメイトの七瀬は口数も少なく、表情もあんま変わらない。そのため周囲ともどこか敬遠しがちだ。夏過ぎてからは幾分かマシになったものの、やはり積極的に関ろうとはしない。幼馴染みの橘といつも一緒だ。あと今年できたばかりの水泳部に入部してからはその後輩たちと一緒にいるのをよく見かける。
そんな七瀬がなぜ俺なんかを見てくるのか全く検討がつかない。七瀬イケメンだし、水泳得意だし、少し変わっているが悪いやつではない。水泳の大会で不祥事を起こしたそうだが、そのいきさつもまたまさに青春だった。まるで少年漫画の主人公の七瀬がなぜ俺のようなモブを見るのだろう。話しはするけどなぜかそっけない態度を取られるうえ目も合わせてくれない。なのにこの視線。まるで射殺せんばかりの視線に耐える俺の忍耐力を褒めてやりたい。

(聞いてみたくてもなあ、あいつ俺と全然話してくれないどころか目も合わせてくれないし……)

もしかして嫌われてる?と思った矢先にこれだ。七瀬の考えていることはてんで分からない。

(もしかしてこの前橘に嫌われてるのかも愚痴ったのバレた?いやでも橘そんな人にバラすような……あ、七瀬相手ならやりかねない)

悶々と頭を悩ませていたら突然あまちゃん先生が咳払いした。

「コホン、明王寺君」
「へっ?なんスか?」
「いまの時間は古典だってわかってるかしら?」
「なにいってんのあまちゃん先生、そんなのわかってるって」
「そう、それなら」

どうして英語の教科書開いてるのかしら?
にっこりと凄みのある微笑みにピシッと固まる。恐る恐る教科書を見ると、持っていたのは古典の教科書ではなくなぜか英語の教科書だった。

「あ、あれぇ?」
「明王寺君、罰として課題提出ね」
「えー!!」

授業聞いてなかった俺が悪いとわかっている。
でもすべての元凶七瀬にあるんですあまちゃん先生!!

(……なんていえないよな)

そんな俺ができるのはがっくりと盛大に肩を落としてはいと頷くだけだった。


(明王寺、すごい困ってる……)

真琴はいままでのやり取りを見守りながら心中で明王寺を同情した。
ちらりと横の席を盗み見ると幼馴染みの遙は窓の外から先ほどまでガン見していた明王寺に視線が戻っている。じいっとまるで相手の動向を一時も逃そうとしないとでもいうかのように明王寺を凝視している。それを見て真琴は苦笑するしかない。

(確かに見つめるとはいってたけど、見つめすぎだよハル)

『ねえねえハルちゃん、僕思ったんだけどここは王道の遠くから見つめる作戦でいこうよ!!』
『ほらハルちゃんって明王寺さん直視できないっていってたからこれを機に見慣れるための練習になるし、見続けてたら明王寺さんもハルちゃんの気持ちに気付いてくれるかも!』

と、提案をしたのは遙の事情を知っている渚だ。それを聞いた全員はそんな昔の少女漫画じゃあるまいし、と笑い飛ばしたのだけれど遙だけは違った。普段ならそのまま流すはずなのに、なぜだか渚の提案を素直に受け入れてしまい、こうして明王寺を見つめ続けている。それでもやっぱり直視は恥ずかしいのか明王寺が遙の方を見てしまうとつい窓へと外してしまう。なんともいじらしい姿に心打たれた真琴もとい水泳部一同はそんな遙の遅い初恋を応援している。

(最初はどうなるかと思ったけど、良くも悪くも渚の作戦は成功しているからすごいよな……)

まさか遙がそういう意味で見ているなど露にも思わない明王寺ではあるが、いまも遙からの視線にソワソワと気にしているのを見れば遙の努力は少しずつ報われているみたい。

(頑張れハル、俺応援してるから!)

現在授業中のため、口ではいえないからと心の中で応援することしか今の真琴にはできなかった。


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