■ 青年よ、野望を抱け

 fall in love―――ぶっちゃけると一目惚れだった。
 あの鮫みたいなギザギザの歯とか、一体どんな整髪剤使ってるのと聞きたくなるトゲトゲした濡羽色の髪、前髪で隠れてて未だ見れてないけどきっと澄んだ瞳、黒豹を思わせるしなやかな体つき、もうすべてが自分の好みドストライクだった。
 もちろん見た目だけじゃない、SEのせいで周囲を突き放した態度を取る孤高の君。お好み焼き屋の次男の君が仕事と学校以外で店の手伝いをちゃんと手伝う働き者の君。見た目の割に大人しくて性格がいい子の方が好みのギャップ萌の君。もうなんなの、ギャップ萌えの塊すぎるよ。
そんな君だから俺は毎日夢中になっていっていってしまってる。

 ああ、ああ愛しの影浦君。俺の目の前に舞い降りた天使。
 あまりの神々しさに未だ話しかけられる遠くから見ている俺をどうか許してほしい。それだけ君が好きなんだ。もう好きすぎて君の身長・体重・誕生日・好きな食べ物諸々覚えちゃったくらい。BBFに書いてある内容なんて俺全部知ってたよ、もっと調べろよBBF。いやファンブックのことなんてどうでもいい。
 とにかく君が好きなんだ。
 好きで、好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで!!
 もう俺の世界の中心といってもいい、君に向けて愛を叫びたい。
 ああ影浦君、俺は、俺は君のことーーー

「大好きです!!!!(小声)」
「そんなに好きなら告白すりゃあいいじゃん」

 バッと勢いよく振り返る。そこにはぼんち怪人こと迅悠一がボンチをボリボリと食べて立っていた。

「迅テメェこの野郎、俺と影浦君のイチャパラタイム邪魔すんな」
「いやいや、そこはみょうじのドキソワ☆影浦盗撮タイムでしょ?」
「ばっ、盗撮とは人聞きの悪いこというな!」
「ならその持ってる一眼レフと双眼鏡の用途を俺に納得できるように説明してみ」

 迅が指を差す先にはいつのまにやら手に持っていた一眼レフカメラとこちらもいつのまにか首にかかっていた双眼鏡をさっと後ろに隠す。

「ちょ、ちょっと野鳥を撮ろうと思ってっ……?」
「ここ本部、そしてロビー、森なんてあるわけない、OK?」
「俺の心の目には野鳥が存在してるんだよ!!」

 そう影浦君という国宝級の野鳥が。恥ずかしいないわせんなバカ。
 俺の精一杯の言い訳をいつものサイドエフェクトで見破ったであろう迅は心底呆れた様子でぼんち揚げを一個口の中に放り込む。

「みょうじも飽きないね、一体何年追っかけやってるの?」
「追っかけじゃない、影浦君を見守り続けてるだけ。ちなみに今年で三年目突入した」
「うわっ」
「うわってなんだよ!」

 俺の純粋な恋心をバカにする迅に抗議する。顔は相変わらずのムカつく笑顔だがうわっの声から伝わるどん引き様に俺のガラスの心にひっかき傷が入った。慰謝料ふんだくるしかない。
 だが、慰謝料を求める前に食べてたぼんち揚げの袋を渡されてしまう。またサイドエフェクトで先を見越されたかと悔しい気持ちで手を突っ込んで大量に奪ってやった。

「あ、さすがに取りすぎだろっ」
「うっさい、俺の至福のときを邪魔したんだからこれぐらいで多めに見やがれ!」

 手の中にあるぼんち揚げを全部口の中に放り投げる。思ったよりも多すぎて噛むのが大変だし、正直固いから歯茎に当たって痛い。だからといっても戻すなんてできるはずもなく、痛みに耐えながら必死に噛み砕いた。
 ぼんち揚げによって口の中の水分が奪われる中、少しでも気を紛らわせようと影浦君に視線を戻す。
いつもの通り不機嫌なご様子で周りに当たっている影浦君は今日も可愛い。前髪に隠れた三白眼がきっといつも以上にキュートにつり上がってるに違いない。ああ、俺も影浦君に八つ当たりされたい。俺だったら君の苛立ちを全部受け入れてあげるのに、なんならスコーピオンで滅多刺しにしてくれたったいい。君に貰えるものなら俺にとってご褒美なんだ。それを本人にいいたいけど、優しい影浦君だからバカかって一掃されちゃうんだろうな。うふふ、本当に影浦君ったら可愛いんだから。

「なあそうやって人と話してるときにトリップするのやめない?」
「え、迅なんか話してた?」
「してたしてた」

 話を聞いてなくても迅は怒りもせずにやっぱりぼんち揚げ食べ続けてる。俺の性格をちゃんと理解してくれてる迅にいい友達を持ったと心の中だけで感謝した。伝わってると思うから口にはしない。
 そんな心の友迅なんてどうでもいい、それより影浦君だ。双眼鏡で覗くと何やら挙動不審でキョロキョロしている。それがカラスの雛鳥みたいで可愛いくて悶える。影浦君今日も可愛い。
 震えてる自分にまだいた迅が隣に並ぶ。隣からボリボリと音がはた迷惑だが今は影浦君の方が大事だ。

「いつもいってるけど、お前がそうやって離れた場所から見てる限り影浦と進展しないぞ」

 双眼鏡を外して迅を見やる。手すりに肘をついて頬杖をつく迅と目が合った。いつもへらへらしてるだらしない顔が真顔でこちらを見ている。正直怖い。台詞が台詞だから尚更だ。

「え、なにそれ迅のサイドエフェクトがそういってる系?」
「俺のサイドエフェクトがいわなくてもなまえ見れば誰だってわかる系」
「まさかの大多数の意見」

 しれっと迅にいわれ、真っ先に抱いたのは怒りだった。
 メロスは激怒したならぬ、みょうじは激怒した。必ず迅悠一に抗議をしなければならぬと決意した。

「迅いっとくが、俺だって頑張ってるんだ!いつまでもこうして遠くから見守るだけのチキンな男だと思うなよ!俺だって、俺だって大志を抱く青年なんだからな!!」
「へえ……ちなみにその大志って?」

 それが誘導尋問しているとは重々理解していた。だが、いま答えなければ自分がいつまでもチキンな野郎と思われるのも嫌だった。
 ぐっと双眼鏡を握りしめる。ずっと心の中で秘めていた大志を、意を決して打ち明けた。

「影浦君と、面と向かってお話しながら影浦君が作ってくれたお好み焼きを食べる!!」

 キャッ、いっちゃった。ずっと秘めていた野望を初めて他人に打ち明けたのが照れ臭くて赤くなる頬を押さえる。
迅はというと、まるで時間が止まったみたいに固まっていた。石化のまま見つめられて居心地の悪さを覚えながらもそこまで衝撃な内容だったかとちょっと自分の志の高さに優越を感じる。
 迅が固まること1分弱、さすがに話しかけようとしたところで石化が解けたと同時に大袈裟に深い溜息を吐き出す。

「……あー、うん、なんか、うん、がんばれ」
「お、おう頑張る!……ってあああああああああ!影浦君がいない!!」

 応援してもらえたのに気をよくして影浦君ウォッチングを再開しようとしたのに、少し目を離した隙に影浦君の姿が消えてしまっていた。どこを探しても影浦君の姿は見あたらない。たった一瞬だけでいなくなる、さすが影浦君!でも俺が見てるときに消えて!!
影浦君を見失ってしまった絶望に膝から崩れ落ちて床に手をつく。

「影浦君が、俺の烏ちゃんがいないっ……ううっ……」
「お前のじゃないだろ……ああもう泣くなって、待ってたらきっといいこと起きるから。俺のサイドエフェクトが」

慰めで肩を叩こうと迅の手を振り払う。

「たとえお前のサイドエフェクトがいってても、今じゃないならダメだ!!俺は影浦君を追いかける!!影浦君を一秒でも長くこの目に焼き付けるんだ!!」

 どんな未来であろうとも、俺と影浦君の中を裂くのは許さない。双眼鏡とカメラを抱え直し、腹いせにぼんち揚げを奪って走り去った。
いまの時間帯ならきっと他の隊員と食事をしているに違いない。食事をする影浦君を写真に収めるために俺は全力で食堂へと向かった。

「あーあ、待ってればいいのに……バカだなあいつ」

 俺が立ち去ったあと、迅がそんな意味深なことを呟いていたのも知らないし、迅のいうとおり俺がいた場所にトリガーオンで影浦君がやってきたのを知るはずがなかった。


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