■ 紅茶と珈琲+α、仁義なき戦い

 現在ライブラは紅茶党とコーヒー党で分かれている。
 紅茶党の筆頭はリーダーであるクラウスさん、そしてコーヒー党は副官のスティーブンさんだ。二人とも水のごとく飲んでいる。というか主食ならぬ主飲ってやつだ。
 ちなみに僕ことレオナルドはどちらでも美味しくいただける党に所属している。だってギルベルトさんの淹れたのならなんだって美味しい。
 ちなみにこの紅茶党とコーヒー党はとても仲がいい。何せどちらの党のトップが仲がいいのだ。いざこざなんて起きない。互いの好みを尊重しているためとても平和な友好関係を築いている。
 ただし、ある人物が関わらなければの話だ。

「なあなまお、いい加減コーヒー飲んでみないか? 無理ならカフェオレにするっていうのも手もある」
「いやむしろ紅茶はどうだろう、香りが豊富だから君好みのをギルベルトが用意してくれるはず」
「おいおいクラウス、そこでギルベルトを出すのは卑怯だろう。そりゃあ紅茶の香りの豊富さには負けるがコーヒーは豆の種類や炒り方によって味の違いが大きく変わるぞ。紅茶が香りを楽しむのならこっちは味で勝負だ」
「スティーブンそれは聞き捨てならない、紅茶は産地や場所によって味や風味が全く違う。たとえばダージリンは」

「悪い、気持ちは嬉しいがどっちも嫌いだから飲まない」

 熱心にプレゼンはたった一言で呆気なく終止符を打った。ばっさりとぶった切った相手に、クラウスさんとスティーブンさんは苦渋を噛み潰した顔で睨んできても平然としている。
 ライブラのツートップからの威圧も平然としているのはライブラに所属しているなまおさんだ。立場でいったら僕らと同じ構成員に位置するなまおさんだが、クラウスさんとスティーブンさんとは二人が牙狩り時代からの付き合いらしい。そのため、付き合いが長いからとあの二人を軽くあしらっている中々すごい人だ。

「やーだ、あの二人またなまおっちに絡んでるの?」
「あ、K・Kさんおかえりなさい」
「ハァイレオっち」

 ソファに座っている僕の背後からちょうどオフィスに戻ってきたK・Kさんひょっこりと顔を出す。もちろん手にはギルベルトさんが淹れてくれたコーヒーだ。ちなみにK・Kさんも僕と同じどっちも好き派に所属している。

「毎度毎度あの二人も飽きないわね、あのやりとり牙狩りしてた頃と全く変わってないわ」
「え、三人って昔っからあんな感じなんスか?」
「そうよー、なまおっちの紅茶&コーヒー嫌いはずっと変わらないわ」

 あの二人もいい加減諦めたらいいのにね、と笑ってるK・Kさんに僕も釣られて苦笑いする。
 クラウスさんとスティーブンさんが何故なまおさんに執拗に互いの主飲を勧めているかというと、紅茶党・コーヒー党・どっちも好き党のどれにも所属しない『どっちも嫌い党』だからだ。ちなみにメンバーはなまおさんただ一人だけ。
 話の流れから察せれるが、どうもなまおさんをどちらかの党に引き入れたいようだ。平和的な友好関係もなまおさんの前だと掌返して開戦が起きる始末。

「なまお何度も聞いてると思うが、一体コーヒーの何がいやなんだ?」
「味と色」
「牛乳と砂糖入れればいいだろっ」
「俺の中ではそれは邪道だといってる」
「飲まないくせになにいってんだ!!」
「で、では紅茶はっ」
「草っぽいのが無理」
「草……!」

 情け容赦なく一刀両断され、がっくりとうなだれてしまう。それでもなまおさんは全く気にした素振りも見せず、自分で買ってきたコーラを飲んでいた。傍観者の立場からすれば最早清々しい気分にさせられる。
 どこまでもブレない姿勢に尊敬の念を送る横でK・Kさんは腹を抱えて笑っていた。バシバシと僕の肩を叩くのはいいが外れるのではないかと不安になるくらい痛いから正直やめてほしい。

「なまおっち最高っ! 見てよレオっちあの腹黒男のしょんぼりっぷり!」
「そ、そうっすね……それにクラウスさんも可哀想なほど萎れてますし、なんであの二人あそこまでなまおさんに飲ませたいんでしょ……」

 クラウスさんだってスティーブンさんだって僕らがどちらを飲んでも何もいわないくせに、なまおさんには飲ませようと必死だ。
 一体彼らの間で何があったのだろう、何も知らなければただの修羅場にしか見えない。
 独り言のつもりで口にした疑問を答えてくれたのはK・Kさんだった。

「別に対した話じゃないわよ、昔なまおっちが二人に向かって『どっちも嫌いだから飲みたくない』っていっただけ」
「え、それだけっすか?」
「それだけよ、二人も最初は特に気にしなかったけど何度も勧めても拒否されるもんだからもう意地になってんの」
「意地っすか……」

 たかが紅茶とコーヒーで、と思ったがあの二人にとっては真面目もクソもないらしい。普段そこまで熱くならないツートップが意地になるのだからなまおさんの拒否っぷりには感服してしまう。

「ぶっちゃけクラっちも腹黒男も勝ち負けなんてどうでもいいの。とにかくなまおっちがどちらかを飲めばそれでいいってわけ」
「はぁ、なんつーか……嫌いな食べ物をなんとしてでも食べさせたい母親みたいっすね」
「ぶはっ!レオっちまさにそれ!」

 ナイス!とほめ言葉を貰ったが、叩く力がさらに増したおかげで素直に喜べない。作り笑いもそろそろ限界がきている。
 そうこうしている間に三人の、というかクラウスさんたちが勝手にヒートアップしていっている。

「もうどっちでもいいから飲め!それで俺たちの戦いは終わるから!」
「嫌だね、俺はコーラ以外のやつと浮気しないってガキの頃から決めてんだ」
「子供か!お前いくつだ!」
「永遠の二十歳☆」
「ギルベルトの紅茶に何が不満なのだ……」
「えー、ギルベルトさんに不満はねぇよ。ただ紅茶とコーヒーが飲みたくないだけ」
「なら何を飲むのだ」
「クラウスお前なにいってんだ、そんなのコーラ一択に決まってんだろ。あとギルベルトさんが作ったカクテル」

 このまえの焼酎ベースのカクテル最高だった、とクラウスさんの後ろに立っていたギルベルトさんに二本指を立ててVサイン。ギルベルトさんもギルベルトさんでお返しのVサイン、あの二人実は結構仲良しのようだ。
 そして等々クラウスさんとスティーブンさんはそれ以上なにもいい返そうとしなかった。戦意喪失、どうやら今回もなまおさんの一人勝ちだ。
 こういうときだけHLは平和に思える。ほんのつかの間の平和を味わいつつ、ギルベルトさんが淹れた美味しいコーヒーに口をつけた。
 とりあえず、帰ったら肩に湿布貼ろう。

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