■ 【急募】麻酔銃が売っているお店

「なまおやめたまえ」

意気揚々とネクタイを解こうとしたら、恋人が制止の声を投げつける。これからというときに邪魔をされ、不満なのを包み隠さずに自分の下にいる恋人を睨みつけた。

「なんだよクラウス、せっかく盛り上がってるところなのに邪魔すんな」
「盛り上がってるのは君だけだ、ここをどこだと思っている」

いわれるがままに周囲を見渡す。見覚えのある場所だと確認してからまた恋人に視線を戻した。

「何って、ライブラの執務室だな」
「そう、ここは執務室だ。なら私のいいたいことが分かるはず」
「そういう場所でするのも一興だぜダーリン」
「生憎、私にはそういう趣味はない」

遠回しに自分の上から下りろと口でいってはいるものの、自分の上から無理やりどかさない辺り今の態勢は満更ではないようだ。あと力を込めて自分が怪我でもしたら、なんていらぬ心配をしてるのもある。

(バカだなぁ、女じゃあるまいしそう簡単に壊れるわけねぇっつうの。ていうかお前とあんなことやこんなことできてるんだから丈夫な方だっていい加減理解しろよ)

いったところで彼の性格上直るはずもないので言葉にせずにクラウスの頭をわしゃわしゃと撫でてやった。クラウスはクラウスでいきなり頭を撫でられたもんだから訳が分からずハテナマークを乱舞させている。だが人よりも二回りも大きい恋人は滅多に頭を撫でられないのでされるがままとなって受け入れる。折角整えた髪型が崩れてもお構いなしだ。そこがまた可愛いから困る。気分は恋人を愛でるというより愛犬を愛でる飼い主といったところか。
ちなみに今の自分は恋人であるクラウスの膝の上に座って服を脱がしている最中。久方ぶりに再会した恋人、やることといったら一つしかない。
いつもなら誰かしらいる事務所も自分たちの再会に気を利かせて全員退室してくれた。いつも一緒にいるギルベルトさんも紅茶の買い出しにと珍しく主人から離れている。まあ自分たちがこれからナニをするか察してくれたのだろう。馬鹿め、いちゃつくだけで俺が満足すると思ったか。
そんな周囲を心情など露知らず、紳士だけれど朴念仁な恋人は仕事場で行為を及ぶ罪悪感といつ人が戻ってくるか分からない焦りと戦っている真っ最中。
顔は厳つさ三割増しでも考えてることは手に取るように分かる。伊達にこいつの恋人をやってない。

「……時折」
「なんだー」
「君が、なまおが私より年上なのを忘れそうになる」
「それは俺がガキだっていいたいのか?喧嘩なら買うぞ」

クラウス相手に勝てるわけないのは明白だが一応演技で拳を作る。喧嘩を売ってきた相手は真面目な性格ゆえに言葉を真に受けて首を横に振って否定した。

「違う、ただ……複雑というべきか」
「あ?」

さすがにカチンときて低い声が出た。いや確かに年相応に態度取ってないのは自覚してる。でもさすがに人前ではしないぞ、お前の前だけだ。それを分かってくれているかと思ったが、さすがにやりすぎたかと一抹の不安が過る。
自分の声のトーンにすぐに察したクラウスが再び否定の言葉を口にする。そして、数拍ほど沈黙を置いてからぽつりぽつりと話しだした。

なまおは私を甘やかしすぎる傾向がある。
まるで年下のように私に甘えてきたと思いきや、年齢に見合った年上の余裕で私をとことん甘やかす。そうして私の矜持を傷を付けないようにしているだろうが、その逆だ。
いつだってなまおとの年齢差を気にしてるというのに、君は私の劣情など一切無視して楽しげに私を振り回す。そのたびに私がどんな思いをしているか君は知らないだろう。
だがこれだけは信じてくれ、それが嫌だと思った事など一度もない。
むしろ年の差など関係無く私を好いてくれるなまおに好意を抱いている。だが、同時に掌を転がされている自分に悔しさを覚えるのだ。
私はなまおのように甘えられなければ甘えさせる術も分からない。
自身の性格は十分に理解はしている。そのようなこと、私にはできないということぐらい。
だからこそ、なまおが羨ましい。なまおのようにそのような術を持っていたら―――

まるで懺悔をするかの如く、真摯な表情を浮かべて語るクラウスの唇が結ばれた。それ以上はいいたくはないと空気を醸し出す。予想外過ぎたクラウスの告解に口をぽかんと口を開いてクラウスをまじまじと見る。

「……クラウス、お前って奴は本当に困った恋人だな」
「すまない」
「ばーか、謝るよりも先にいうことがあるだろ」
「?」

言葉の意図がいまいち理解できず、首を傾げる恋人にペナルティで軽く額を叩く。反射的に額を押さえた手の甲に人差し指を押しつけた。

「電話や手紙じゃなくて久しぶりの本物なんだぜ、お前の今の気持ちを俺に教えてくれよ」

その言葉で自分に甘える機会を与えたのをやっと理解したらしく、一瞬目を丸めたと思いきや顎に手を添えて考え出した。

「……いきなりやってきて驚いた」
「人生驚きが必要だって誰かがいってたからな」
「できれば来る時は連絡を入れてほしい」
「入れてるぞ、ギルベルトさんに」
「っ!! 初耳なのだが」
「だって秘密にしてくれって頼んでるし……他には?」
「他、か」

再び考えるのに集中し出した恋人に苦笑が漏れる。それでもクラウスがちゃんと口にするまではと辛抱強く待った。耐え症のない自分にしては良く頑張っている方だと自分で自分を褒めたくなる。ついでににやける口許に関してはどうか許してほしい。
そうして、時間を置いてクラウスの手が自分に伸びた。武骨な手が自分の頬に触れ、確かめるように軽く撫でる。

「……君の筆跡を辿るのも、電話口での声を聞くのも嫌いじゃない。だが、やはり本物のなまおが一番だと再確認できた」
「ははっ、100点満点の答えだ」

ちゃんといえたクラウスに、もとい律儀に待てをしていた自分への御褒美として恋人の唇を噛みついてやった。


補足だが、そのまま服を脱がそうと試みたものの、さすがにそれは許してくれなかった。次までに象をも倒れる麻酔銃を用意しようと心に決めた。


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