■ 飲み過ぎには注意しましょう

朝起きたらベットの上にいた。
半分寝ぼけてる意識であたりを見渡し、やっと状況を理解して頭を抱える。

「……やっちまった」

信じられない思いで辺りを見渡してもどう見ても内装はホテル、他と違うのは真正面から完璧見えるバスルーム。ホテルはホテルでもラブがついちゃうホテルだ。
そんでもって隣を見ればシーツがこんもりと盛り上がっている。ちなみにいまの自分は上も下も服を来ていない。

(最近こんなことなかったのになー……まさかこんな日にしちゃうってどうよ俺)

若い頃は酒を飲み過ぎて、起きたらベットの上なんて一度や二度じゃない。それが女でも男でもだ。まさかこの年でするとは思わなかった。
二日酔い特有の頭痛に苛まれながら、ごそごそとベットの下に散らばった下着を手に取る。
散らばった衣類の中に見覚えのない衣類があるのを見るとどうやら今回の相手は男のようだ。ついでに尻も痛い。つまりそういうことだ。

(とりあえず帰ったら風呂入んねぇと……あとクローゼットからスーツも出さないとだ)

じゃないとあいつに怒られちまう、とベットから降りようとしたら隣からうめき声が聞こえた。この状況で顔を合わせると非常に気まずい。金だけ置いて早々立ち去りたかった。
俺の願いが届いたのか、シーツの住人はまだ寝ていたいのか起きあがることなく寝息を立て始める。ホッと胸をなで下ろして早々と着替えを再会させる。すべての支度を終えた俺はすぐに部屋から出ようとした。
しかし、なにを思ったのか扉へ向かう足を止めてベットのほうへUターンする。

(どうせもう会わないんだから顔ぐらい拝んでいくか)

自分でいうのもあれだが面食いなのでそれなりに顔がいいのをチョイスしたのだろう。起こさないように忍び足でベットに近づき、まだ夢の中から戻ってこない相手を起こさないようにゆっくりとシーツをめくった。

 * * * * 

「なまおこっちだこっち!」

待ち合わせ場所に来るや、先に来ていた相手がこちらに向かって大きく手を振って自分を呼ぶ。いい年にもなってそんな大声出さないでほしい。呆れながらもすぐに相手―――高校時代からの友人である鏑木・T・虎徹のところへ向かう。

「悪い、遅くなった」
「珍しいなお前が遅刻なんて……ってどうして顔色悪いぞ?」

心配そうに顔のぞき込んでくる虎徹に指摘されて初めて自分の顔色が酷いのに気づく。それだけ自分は動揺しているといたというのか。原因はすぐに見当ついたが、だからといってその原因などいえるはずもなく適当に仕事で徹夜したと誤魔化す。それをすんなり信じて「もう年なんだから無理するなよ!」なんていう虎徹の単純さは相変わらずだ。

「年ってなんだよお前だって同い年だろうがおっさん」
「おっさんいうな!俺はまだまだ若いっつうの!」
「俺だってまだいけるわ。あ、そういやコンビ復活おめでとさん。今度アントニオと三人で飯でも喰いにいこうぜ、アントニオの奢りで」
「お、サンキュ……ってそこはお前の奢りじゃないのかよ!」
「当たり前だろ、お前等の方が稼いでんだから」
「虎徹さん」

自分たちの会話を遮って第三者が口を挟む。虎徹の隣で優雅にコーヒーを飲んでいる若い男。一口含んで飲んでから、にっこりと作り笑顔を作ってみせる。

「虎徹さん、そろそろ紹介してくれませんか」
「お、そうだったそうだった!なまお紹介するな、こいつは」
「バーナビー・ブルックJr.だろ。この町で知らないやつはいないって」
「だよな。んじゃあバニー紹介するな、こいつは高校からのダチでなまお・みょうじっつうんだ」
「初めましてバーナビー・ブルックスJr.です」
「なまお・みょうじだ、よろしく」

立ち上がって手を差し出してくる若い男もといバーナビーの手と握手を交わす。テレビでイケメンともてはやされる理由がわかった気がする。確かに騒がれる顔ではあるし、紳士的な振る舞いは女からしたらまさに理想の王子様みたいな存在だろう。こいつ二次元から出てきたのではないかと疑うくらいだ。

「いつも虎徹が世話になってんな、こいつの世話大変だろ」
「ええ、必ず何か壊すので見ていて冷や冷やします」
「ははっ、あいつ昔っから何かあると壊すからな。力使っても使わなくても壊すんだよ、もう才能としかいえねぇ」
「だあっ!お前等そんなところで意気投合すんなよ!」

もっと他の話題をと怒る虎徹はもちろん無視する。虎徹という共通の知り合いがいるおかげでをバーナビーとの会話はとても弾んだ。虎徹の過去の恥ずかしい話から仕事での大失敗など、だいたい虎徹の話しかしていないながらも話題が尽きることはない。そのうち虎徹も諦めて忌々しそうにストローをガジガジ噛んでいる。と、そんなときに虎徹が何かを思い出したかのように口を挟んできた。

「そういやあいつ遅いな」
「……」
「あいつ?」

あいつといわれても分かるはずもなく、首を傾げて問いかける。

「あいつって誰だよ、アントニオか?」
「いんや、あいつじゃなくて違うやつもう一人呼んでんだ。今日はバニーとそいつをお前に紹介してやろうと思ってたんだけどよ」
「まあ彼が重役出勤はいつものことですから……遅くなるって連絡しないのはどうかと思いますけど」

くいっと眼鏡のフレームを上げるバーナビーの顔はとても渋っている。時計を見ると虎徹達と合流してから30分は経っている。虎徹たちの話を聞く限り、その会わせたいやつは相当な遅刻常習犯とみた。

「一体誰だよそいつ、ちょっとヤキ入れるか」
「ヤキって……なんだか時代感じますね」
「眼鏡に指紋つけてやろうか」
「お断りします、ってちょっと指近づかせないでくださいよっ」
「お前ら喧嘩やめろって!つうかなまおやめとけ、一般人のお前でもでもどっどーんされっから!」
「……どっどーん?」

虎徹の口から聞き逃せない単語が出てきた。どっどーん、聞き間違いでなければ虎徹はいま口にしたはず。まさか、と信じたくない思いでバーナビーの眼鏡に伸ばしかけた手を止めて虎鉄の方に首を動かす。

「おい虎徹、まさか会わせたいのって」
「ジュニア君みーっけ」

自分の台詞を遮って、頭上から声が落ちてきた。その声に聞き覚えがあった。この間までテレビで聞いたことがあり、そしてつい最近も耳にしたその声に頭の先から一気に血の気が引く。違う相手かもしれない、と思いたいのに皮肉にもバーナビーが俺に死刑宣告を告げる。

「ライアン!一体何分人を待たせるんですかっ!」
「そんなこと分かってるって、だって起きたの待ち合わせ時間10分前だったし」
「それなら遅れるって連絡入れるべきだったはず、そういうことは必ずしろとあれほど」
「ちょっと大きい声出すのやめてくんない?俺様いま二日酔いだからジュニア君の声ガンガン響いて辛いんだわ」
「二日酔いって、あなた今日は人と会う約束だからくれぐれもとあれほどいったのにっ」

さっきまでのにこやかな笑顔はどこへやら、眉間に皺を何本も作って怒鳴るバーナビーは怒ってもイケメンである。怒るバーナビーにライアンと呼ばれた男は怯むどころか反省の色も見せないで買ってきたであろうコーヒーを飲んでる。それが火に油を注いでいるのだがそれでもライアンという男は気にする素振りも見せずに椅子に座る。

「ライアン聞いてるんですか!」
「はいはい悪かったって……あ、アライグマのおっさんじゃん」
「おう、相変わらずだなライアン」
「そっちこそ相変わらず変な髭してんな……っと、そっちは?」

こっちを見ようとする前にさっと逆方向に顔を逸らした。じろじろと視線が刺さるが顔を見られたら非常に困る。けれど自分の様子に気づいていない鈍感な虎徹が意気揚々と紹介し出す。

「こいつは俺の知り合いのなまお・みょうじっつうんだ」
「へえー……なまお、ねえ」
「……ど、どうも」

じろじろとこちらの顔を覗こうとするライアンと目を合わせないように必死に顔を合わせないように徹する。顔には出さないように気を配ってはいるが握っている手は冷や汗で湿っていて気持ちが悪い。それでものんきに紹介を続けようとする虎徹をぶん殴ってやりたかった。

「なまお、こっちは……まあ知ってるだろうけどこのまえまでバニーの相棒してた」
「ゴールデンライアン、っていやあ分かるよな?なあ、オニーサン」

『オニーサン一人?よかったら俺と飲まない?』

その声、その呼び方、その笑い方、嫌でも昨日の出来事を呼び起こす。そして今朝、シーツをめくって見てしまったときの衝撃まで一緒に思い出してしまい目眩を覚えた。
まさか昨日一夜を共にした男が、目の前に現れるなんて誰が予測できただろう。

(誰が嘘だといってくれっ)

一回り以上も年下で、しかも自分の友人の元同僚。そんな相手がまさか昨晩の相手だったなんて虎徹たちに知られるわけにはいかない。
ひくりと口元が引きつる。互いに気まずい状況のはずなのに、まるで今の状況を楽しむかのようにニヤニヤして眺めてくる顔を思いっきり殴ってやりたかった。

「これからよろしくねオニーサン」
「……よろしく」

んなことできるわけないだろう。と、内心吐き捨てながらいかに虎徹たちにバレずに立ち去れるか必死に頭を巡らせるのに専念した。


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