■ 雨に歌えば

今日は厄日だ。
ここ絶好調の星座ランキングでまさかの最下位、予期せぬ不幸に見舞われるかもなんてアナウンサーが明るくいっているのを聞いて嫌な予感がしたのだ。
案の定、その予感は的中した。

「……マジかよ」

先ほどまで快晴だった青空は昇降口を出た途端に暗い雲に覆われ、地面に打ちつけるほどのどしゃぶり雨が降り始めた。暑くて死にそうだったというのに今は肌寒ささへ感じる。さっきまでグランドを走っていたサッカー部の姿はなく、雨によってぐちゃぐちゃになった地面を呆然と見つめた。

「嘘だろ、今日晴れっていってたじゃん」

今日は一日晴れです!ってお天気お姉さんの言葉を信じて出たというのに、久しぶりに部活も休みだから寄り道して帰ろうと意気込んでいたらこのざま。もちろん傘など持っていない。

(予期せぬ不幸ってこれのことか……これ止むまで時間かかりそうだぞ)

数分の間に雨の勢いが増し、グランドはちょっとした湖と化していた。このまま走ってもよかったが、急ぐ用事もないのにわざわざずぶぬれになるもの気が引ける。ならば、止むまでここで待つしかない。
せっかく久しぶりのオフだからと考えていた計画が全部パーだ。盛り上がっていた気分も萎えてしまい、なにもする気が起きず鞄を振り回しながらいまの気分にぴったりの曲を歌ってみる。

「あーあーあーやんなっちゃったーあーあーあーあー驚いたー」
「選曲古すぎやしませんか」
「ぎやぁっ!?」

人がいないからと大声で歌っていたらいきなり後ろから声がして飛び上がった。なんとなく既視感を覚えて振り返ると思った通り赤葦が立っていた。

「おまっ、赤葦てめぇ俺の背後に立つんじゃねぇよ!!」
「別に好きで立ってるわけじゃないですから、それよりみょうじ先輩帰らないんですか……ああ」
「ああってなんだよ!いや分かってるけど!」

ちらりと自分の手に視線を向けて納得した顔を浮かべる赤葦。イラッとしてつい噛みついたが赤葦が考えているのは間違ってはいないのでそれ以上は言い返せなかった。ちなみに赤葦はちゃっかり折りたたみ傘を持っていた。なんなのその用意周到っぷり。

「裏切り者め」
「勝手に裏切り者扱いしないでください、夕立なんてこの時期よくあるから備えで持ち歩いてただけで」
「へー、実際は?」
「……家族に押しつけられました」

それだけです、なんてそっけない態度で突っ返す。が、表情は気まずそうだ。きっと雨降ったら大変だからと無理矢理持たされたのかもしれない。律儀に答える赤葦の真面目さに吹き出して笑ってしまう。

「お前ってホントなんつうか……ブホッ!」
「……先に失礼します」
「ちょっ、お前先輩置いて帰るやつがいるか!」

さっさと帰ろうとする赤葦の肩を慌てて掴んで阻止する。顔には心底面倒くさいと書かれてるけどそんなんで俺はめげない。

「久しぶりの休みだから早く帰りたいんですけど」
「そういうなよー、せっかくの休みなんだから先輩と仲深めようぜ〜?」
「部活だけで十分なんで」
「赤葦冷たい!貸してくれる優しさねぇの!?」
「そしたら俺が濡れるじゃないですか、忘れたみょうじ先輩が悪いんでしょ」

なにいってんだこいつ、なんて目で見られてしまうとさすがの俺の心も折れる。さすがに貸してもらおうなんて思わないが、少しくらい時間つぶしに付き合ってくれてもいいのに。さすがに先輩としてこれ以上いうわけにもいかず、渋々諦めようとしたところで赤葦から声をかけられる。

「みょうじ先輩」
「なんだよー、さっさと帰れよー」
「……途中まででいいなら入っていきますか」

まさかの提案にがばっと顔を上げて赤葦を凝視した。

「……マジ?」
「嫌ならいいですけど」
「いや嫌じゃねぇけど……俺らで入ったら濡れないか?」

どちらかが女子ならばちょっとしたロマンスが生まれそうだが、残念ながら二人とも男子バレー部員、身長も難いもいい。そんな男同士で相合い傘なんて、確実に濡れるしビジュアル的に誤解を招きかねない。
そんな不安が過ってしまい、せっかくの赤葦の提案に渋った態度を取ってしまう。だが、そんな俺の様子に嫌なら帰りますとそのまま帰ろうとするもんだから勢いで赤葦のシャツを掴む。

「わかった!一緒に入る!」
「別に嫌だったらいいですよ、俺は帰るんで」
「生意気いってすみません!入らせてください!」
「……どうぞ」

赤葦は傘を開くと少し横にずれてスペースを作ってくれた。鞄を胸に抱いてそそくさとスペースに入り込む。じゃあ、という合図と共に一歩出ると傘と肩に雨が当たった。

「つめてっ」
「これぐらい我慢してください」
「はーい」

極力水たまりがないところを歩くものの、雨が地面に跳ね返ってズボンに当たるから意味がなかった。
ちらりと隣の赤葦を盗み見る。男二人で相合い傘なんて差してるというのに赤葦は全く気にしていない様子だ。赤葦らしいといえば赤葦らしいし、なんだかんだいってこうして困ってたら手を差し伸べてしまうところもまた赤葦らしかった。
おかげで少し濡れるがびしょ濡れは免れた。
機嫌もよくなって鼻歌なんて歌ってみたら赤葦に不審な目で見られたけど気にしない。

「みょうじ先輩いきなりどうしたんですか」
「ついノリで」
「はあ」
「あ、そうだ傘入れてくれたお礼に何か奢ってやるよ!」
「それならマック」
「却下!!」

結局奢りましたよね、遠慮なしのビックマックセット+アップルパイ。
やっぱり今日は厄日だ。もうお天気おねえさんのいうことなんて信じない。

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