■ 視線の先に

「あっちぃ!暑すぎにもほどがあんだろ!!」

うわあと雄叫びを上げてなまおちんは着ていたシャツを脱ぎ捨てた。体中は汗まみれでびっしょり、背中なんて滝のように流れ落ち、着ていたシャツなんてそのせいで濡れてしまっている。
男所帯の部活だからって近くに女バスもいるのだ。「みょうじキモイもん見せないでよぉ」なんて罵倒がきても気にした様子も見せない。
よくもまあ出来るな、と至極面倒な気持ちで眺めていた。否、正確にいうと脱いだなまおちんより隣にいる室ちんのことである。

「……」
「ねえ室ちん、そんな熱視線で見つめるのやめたら。なまおちんにばれるよ」

穴が開いてしまうほど食い入るように凝視する室ちんの視線の先はもちろん半裸のなまおちん。時折ほうっとため息をこぼすのやめてほしい。
見ての通り、バイセクシャルの室ちんはノンケのなまおちんに前三片思い中だ。
本人は隠してるつもりだけど、傍目見ればばればれ。それがなんだかバカらしくて指摘したらなぜかそれ以来やたら相談されてる。
それだけ相手好きっていうのすごいと思うけどさ、お願いだからそんな恍惚とした顔で生唾飲み込むのやめてほしい。あまりに残念なイケメンすぎて目も当てられない。思わず指摘するとさすがの室ちんも我に返る。

「あ、ああごめんアツシ……つい」
「ついじゃないし、ばれたくないならもっと冷静を装いなよ。どう見てもばればれなんだけど」
「オレそんなに見つめてた?」
「見つめてるってレベルじゃない、凝視だから。目が獲物を狙う肉食動物だったし」

冗談じゃなくて事実だ。実際室ちんがなまおちんを見てる目はいまにも獲物に食らいつくのを我慢してる肉食動物に見えてとても恐ろしい。顔は恋するオトメなのに、瞳がそれだからギャップが恐ろしい。ねえ頭はクール、心はホットじゃなかったの。思いっきり熱くなってません?
素直に口にしたらなぜか室ちんは申し訳なさそうに微笑んだ。

「ごめんよアツシ、気持ち悪いところ見せたね」
「うん、いいよもう慣れたし。そんなことよりもうそんなに好きならいい加減告白したら?室ちん相手なら誰だってOKしてくれるよ」

だから早くオレを楽にさせてください。という願いを込めて口にすると室ちんは一瞬戸惑った表情を見せてまたすぐに笑顔を作って視線を逸らした。誤魔化したのはすぐにわかった。

「それは、まだ無理かな」
「なんで」
「……まだ友達のままでいたいから」

でたよ。口にはしないけど内心またかと呆れた。
自分がいうと必ず口にする。友達のままいたい、なんて言い訳なのは本人も気づいてる。
いったら最後、いまの関係にさえ戻らないと思っているからだ。なら好きにならなきゃいいのに、ともう何度目かわからない考えが浮かぶ。

「……友達にそういう意味で好きな時点でもう友達じゃないと思うんだけど」

思ったことをそのまま口にしたら室ちんの体が一瞬震えた。ああ、傷ついたなこれは。ちらりと横目で見てみるとなまおちんから視線を外さずに微笑んでいる。

「そうだな、でもあいつが……なまおがオレを友達と思ってくれているなら友達さ」

口元を緩ませて笑ってみせる室ちんの瞳はどこか遠くを見ていた。その瞳の真意がなんなのか分からない。というか分かりたくない。

「おい氷室ー!敦ー!休憩終わりだってよ!」

室ちんの視線の先にいたなまおちんが手をぶんぶん振って自分たちを呼び寄せる。こちらを向いたなまおちんに室ちんはすぐにいつもの笑顔を張り付けた。

「わかった、いま行く。ほら敦行こう」
「はぁー……メンドくさい」
「そういうなって」

ほら頑張ろう、なんて背中を叩いて室ちんは先になまおちんの元へ向かう。確かに練習も面倒臭いけどいまいったのは室ちんのことをいったのだがあえて口にはしない。

(笑顔で隠したところでいつかばれちゃうのに)

器用そうに見えて臆病者な室ちん。全て笑顔の下の隠して、一人で哀れなヒロインぶってる。端から見たらバカバカしいほどこの上ない。
ならばいっそ全部ばれて、自分みたいに取り繕わずに本音を晒せばいいのに。と、思っても結局やるのは室ちんだから自分がどう思っても仕方がない。

「ああやだやだ、ほんっとメンドくせー」
「こら紫原!練習に集中しろ!!」

思わず出てしまったぼやきが不覚にも雅子ちんに聞こえてしまい、不本意にも竹刀で尻叩きを受けた。
これもそれも全部室ちんとなまおちんのせいだ。

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