■ 本当にあった怖い話

カノジョに出会ったのはちょうど一ヶ月前、買い物に出かけたときだ。
ナンパしに行っただけ?おい誤解を招くようなこというな。オレはただ気になってた子がそこら付近でバイトをしていると聞いてちょっと探しに行っただけだ!っておいそんな目で見るなよ、結局見つからなかったんだから……コホン、話を戻すぞ。

気になってた子の店が見つからず、宛もなくぶらぶら歩き回っていたのだがその途中で奇妙な人だかりを見つけた。
アニメやマンガのキャラクターの格好したやつら―――よくにいうコスプレイヤーってやつがな、いたわけだ。
なんかの女の子キャラを着た子たちの周りにカメラ構えた男たちがうじゃうじゃいるんだよ。なんていうか、そういう界隈を知らないオレとしては未知との遭遇だった。いやでも無条件でかわいい子撮れるっていう点は非常に羨ましい。おいだからそんな目で見るんじゃない、お前等だって見たら驚くぞ!衣装のクオリティーすごかったんだから!
ってまた話が逸れた。オレもさすがにその集団見たら近づこうとは思わない。だからそのまま通り過ぎて離れようとした。

そのときだ、オレは見つけたんだよ。運命の子に!
その集団の中に一際輝く魔法少女、そうオレの女神なまこちゃんに!

カノジョを見つけた瞬間、オレの頭上に雷が落ちてきた。もう気になってた子なんて異次元の彼方に消えていったよ。そしてオレは確信したんだ。カノジョこそオレが探し求めていた運命の相手だって。
あの雪のような肌、純真無垢な瞳、天使の輪っかを作る黒髪、ヒラヒラスカートからすらりとした手足、そしてめちゃくちゃ可愛い!
なまこちゃんはまさにオレの理想だった!
そんな相手を見つけて普通でいられるか? 否、いられるわけがない!

だから俺は迷わずなまこちゃんの元へ駆けていった。カメラ野郎共を押し退けて愛しのなまこちゃんの前に立った。近くで見たなまこちゃんはやっぱり可愛くてオレは試合のときと同じ、いやそれ以上に高揚した……イタッ!おい笠松殴るな!
とりあえず笠松は無視して、やっぱり初対面だし第一印象が大事だ。女の子って少女マンガみたいな展開好きだろうからと昔従姉妹から貸してもらったマンガを思い出して膝をついてカノジョの手を握ったんだ。そして、オレは一世一代の告白したのさ。あのときは口から心臓が出てくるんじゃないかっていうくらい緊張した。
結果だって? ……玉砕だった。「ごめんなさい、好みじゃない」って。おい笑うな、オレは本気だったんだぞ。
いつものオレだったらそこで諦めていたさ。だがせっかく出会えた運命の相手に出会ってのこのこ帰ると思うか?そんなの無理に決まってる! だからオレはめげずにカノジョに頼み込んだよ。恋人がだめなら友達から、いやメル友でもいいのでお願いします。と頭を下げてお願いしたよ。プライド? フッ、そんなのなまこちゃんの前じゃ不必要なものさ。そんなオレの気持ちが伝わって、なんとかなまこちゃんのメアドゲットしたんだよ。このオレの努力を存分に褒めてくれ。そんな冷めた目じゃなくて賞賛を……ってもっと心込めろ!



「……あのさぁ」

森山の長すぎる話が終わるとずっと黙っていたなまおが口を開いた。

「なんだよなまお、やっときたオレの春に妬んでるのか?」
「んなわけあるか、いや盛り上がってるところ悪いんだけど」
「なんだ?いいたいことがあるならいってみろ」

いつになくうざい森山になまおは聞こえるように舌打ちをする。だがそれにもめげずに催促する森山に渋々話し出した。

「これはもしもの話だぞ」
「いいから早くいえって」
「……もしもだ、もしもそいつが男だったらお前どうするわけ?」

なまおが口にした瞬間、その場にいた全員が固まった。森山なんて笑顔のまま硬化している。そんな中で真っ先に復活したのは笠松であった。

「……またぶっ飛んだこというななまお」
「いやコスプレイヤーって化粧とかすんだろ、それで結構化けたりするし」
「でもなんで男にいくんだ?」
「えっ、いや……」
「そんなことあるわけない!」

笠松が追求する前に、それを遮って森山が叫んだ。

「あんな可愛いなまこちゃんが男なわけあるか!」
「いやだからもしもの話で」
「なまこちゃんはオレとデートしたときだって恥ずかしがって手も繋げない純情さんなんだぞ! そんな子が男だったらオレは世界に絶望する!」
「デートしたのかよ!」
「したさ、その次の週に映画に誘ったらOKもらったんだよ。もちろん私服姿も可愛かったぞ、そのときの写真見るか?」
「いやいいわ」

森山が携帯を取りだそうとする前に笠松は瞬時に断るとそこは見るところだろ!となぜか怒りだす。非常に面倒な森山に思わず全員顔を見合わせた。考えることは全員一緒である。

「なんだよお前等、大事な友に春がきかけてるっていうのに祝福しないのか」
「祝福したいけど、なあ?」
「なんていうか、胡散臭いとしか」
「……」

笠松がちらりと小堀へ、小掘はなまおへと視線で訴える。
なまおは黙秘を貫いてるが何がいいたいかは雰囲気で伝わった。その瞬間、森山が突然椅子から立ち上がる。

「お前等がそんな白状とは思わなかった! 先にオレが大人になってお前等を指さして笑ってやるんだからな!」
「あ、おい森山!」

小掘が呼び止める間もなく森山はそのまま走り出して教室から出ていってしまった。森山の背中を見送りながら残された三人は一斉にため息を吐き出す。

「森山の惚れ癖はもうわかってはいたが、まさかそっちに走るとは」
「本当に女子に見境ない」
「……」
「おいなまおどうした?」

さっきからずっと無言のなまおにさすがの二人も心配して声をかける。どこか思い詰めた表情を浮かべるなまおに笠松と諏佐は顔を見合わせた。

「大丈夫かなまお、もしかしてさっきに気にしてるのか?」
「森山いつもあんなだし、あんなこといわれたぐらいで傷つくようなヤツじゃないって」
「……違う」

ふるふると首を横に振って否定する。しかし、いつになく沈んでいるなまおは普通ではない。どう声をかけようか二人で悩んでいると

「なあ、今からもしもの話していいか?」
「は?いきなりどうしたんだよ」
「笠松」
「……話してみろ」

小掘に窘められ、笠松もまた聞く体勢になる。なまおはどこか迷っている様子であったが、少しして意を決してなまおが話を切り出す。

「もしも、もしもだぞ……」


そのなまこちゃん、オレだっていったら。どうする?


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