企画小説 | ナノ


明日は休みだ、と街が浮き足立つ中私は依頼人への対象抹殺完了のメールを送った。今日はこれで仕事も終わりだ、と帰路についてお気に入りのコーヒー豆を挽いて淹れたコーヒーを飲み、一息ついた。
着ていた真っ黒な仕事着を脱ぎ捨て、デニムとこの間買ったばかりのTシャツの上に薄手のカーディガンを羽織り、コーヒーを持ってベランダへと出る。タバコを吸おうか悩んだが明日は彼と会うから、と手に取った箱を元の場所へと戻す。
明日はどこへ行こうかな、と考えながらベンチへ座ろうと腰を下ろせば爪がベンチに当たりパキン、と情けない音を立てて折れてしまった。
爪と言っても付け爪だから痛くも痒くもないんだが、右手の薬指だけ爪が剥がれてるだなんてみっともない、とネイルサロンに予約を入れた。今日は比較的空いているようで二時間後に予約を入れると、飲みかけのコーヒーを一旦置いて出かける準備をする。
二時間後とは言っても何かと時間がかかってしまうのが女性と言うものだ。化粧を軽く直して財布の中身を確認する。夜ご飯はどうしようかと冷蔵庫と睨めっこしているうちに気が付けば予約の時間まで一時間を過ぎようとしていた。
たまには外で食べるのもいいかとカバンを手に取り、飲みかけのコーヒーを流しに置いて自宅を後にする。

予約の時間五分前にお店へ着くとお客は私を含めて三人だけですぐに席へと案内された。

「今日はどうしますか?」
「一枚だけ剥がれてしまったから綺麗に全部付け直したいの」
「お色はお決まりですか?」

そう問われて特に決めて居なかった私はどうしようか、と悩むがなかなか決まらないでいると、店員さんはそうだ、と提案をしてくれた。

「レモンイエローなんてどうですか?」
「レモンイエロー?」
「涼しげですし、お客様にお似合いになると思うんです」
「…じゃあ、それで」

そう言って手を差し出すと色のなかった私の指先は可愛らしいレモンイエローに染まっていった。ところどころホワイトが乗っていたりオレンジが混ざっていたり、とても満足な内容だった。
ありがとうございました。と控えめな声を聞きながらネイルサロンを後にすれば夕方になって少し温度の下がった風が頬を撫でた。
今日は外食をしようと決めてきたから、どこで食べようか悩んでいれば、遠目に見知った姿を見つけて駆け寄った。

「フェイタン!」
「…?ナマエか。ここでなにしてる?」
「フェイタンこそ。仕事の帰り?」

明日会うはずだった彼に思いがけず会えたことに喜びながら隣を歩けば珍しいことに手を取られた。

「最近会えなくて、あー、その…悪かたな」
「全然。フェイタンにはフェイタンの生活があるんだもの」
「そか」
「皆元気?」
「うるさいくらいよ」
「そっか。よかった」
「気になるならホームにくればいいよ。ナマエなら皆歓迎するね」

いいの。私はこうしてフェイタンと一緒にいれればそれでいいの。今私の隣にいるフェイタンは好き。だけど蜘蛛のフェイタンはきらい。それは旅団員みんなに言えること。
私は理不尽な奪い方をする旅団は嫌い。私だって人を殺す。けどそれはビジネスであって自己満足じゃあない。同じだけど違う。
そんな事を考えているとフェイタンに飯は食ったのか、と聞かれ、これから何処かで食べようと思っていたの。良かったら一緒に何か食べない?と返すと久しぶりにナマエが作った飯が食べたい。なんて言うもんだから、嬉しくってなんでも作るよ、とちょっと上ずった声で返せば彼は満足そうに少し笑った。

冷蔵庫の中身が寂しかった事を思い出して手近なスーパーへと二人で入り、献立を考えながらカゴへ入れていく。私は盗みをしないのできっちりとお会計を済ますと、二人で買い物袋をぶら下げながら帰路についた。

久しぶりに会えたこともあって話は尽きなかった。クロロのプリンをフィンクスが食べてしまってアジトが半壊になってしまったこと。シャルが寝不足でパソコンにコーヒーをこぼして倒れたこと。ウヴォーとノブナガがくだらないことで争ってお宝を全てダメにしてしまったこと。マチが作った料理で死にかけたこと。他にもたくさんの話を聞かせてくれた。彼らの事を嬉しそうに語るフェイタンの横顔がすごくかっこよくって見惚れていれば、やめろ、と顔を掴まれた。
お手洗いに立ってメークを落として部屋へ戻ると、疲れていたのだろうかすうすうと寝息を立てているフェイタンが居た。警戒心の強い彼がこんなにも簡単に寝てしまうだなんて。もっと話したかったと思う反面、ここまで信用されているんだと緩む顔を抑えられなかった。
寝室から持ってきたタオルケットを控えめに掛け、滅多に見れない寝顔を堪能する。いつもは隠されている整った顔はさらけ出されていて、つり目がちな瞳やいつも寄っている眉間のシワが無いだけですごく幼く見える。
そしてアルコールせいだろうか。うっすらと色づいた頬が見えた。
そのせいでますます幼く見えた彼の頬を撫でるようにレモンイエローで彩られた指先でそっと触れると、薄目を開けた彼に引き寄せられ久しぶりの口付けを交わした金曜日。
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