今までオレを祝ってくれた唯一の人はもうこの世にいない。
オレはスペアとしてアイツの変わりになれたけど、オレはアイツじゃないから、もう必要とされなくなった。
アイツがもういないなら、オレの生きる意味は無いと思った。
けど、オレを必要としてくれるヤツがもう一人いるって事があの日に分かったから、オレは今も生きて。アイツの分も幸せに生きていくよ。
* * *
「今まで誕生日をちゃんと祝ってもらった記憶なんかない」
って言っていたから、うんと祝ってあげるんだ!
だって、今日は葵くんにとって初めての誕生日みたいなものだと思うから。
せっかくの誕生日なんだからみんなで楽しく!っていうのも考えたけど、大変な事になるような気がする。場合によっては、葵くんの気を損ねるような…。
1年に1度しかない特別な日。葵くんにはそんな記憶がないと言うのだから、良い気分で今日を過ごしてほしい。
私じゃ葵くんのお兄さんの変わりにはなれないけれど、少しでも葵くんの心を癒してあげられたら。
* * *
『今夜何食べたい?』
なんて聞くからオマエを食いたいって言い返してやったら、林檎みたいに顔を真っ赤にしやがった。
冗談だと言うと頬をぷくっと膨らまして、もう…と、そっぽを向かれてしまった。
「そうだな…なずなが作るんならなんでも良いや。うめーし」
『なんでもっていうのが1番難しいんだけど』
「んじゃ、卵焼き」
なずなが初めてオレに弁当を作ってくれた時に入っていたやつ。
素朴だけど、個性があるようで。毎日それでも良いと思った。
『え?』
「たーまーごーやーき!!
オマエが前に弁当作った時に入ってたアレだっつーの!」
『あ…うん!!じゃあ後は適当に見繕うね』
大型ショッピングモールの食品売り場を前にしてそんなやり取りをしていた。
買い物してくるからちょっとそこで待ってて?と言って、買いに行った。
半日くらいここで買い物したり、食べたり、見たり、コイツといると、コイツを見てると退屈しねぇ。
そうだな…アイス食べてたら口の周りとか鼻に結構付いてた、から舐めてやったり。
服見てくれる?って言うからオレ好みの服を見立ててやったら、耳まで真っ赤になった、からからかってやったり。
ほんっと飽きなくて、おもしろいヤツ。
今日が楽しいと思えるのは、アイツのおかげだな。
『葵くんお待たせ!じゃあ、帰ろうか!』
「漸く来たか…待ちくたびれたっつーの」
『ごめんね。今夜は葵くんの為にご馳走にするから!』
「どう調理しても、肉は食わねぇからな」
『はいはい、分かってます』
来年も再来年もまたこうして祝ってもらいたいと思うのは、許されますか?