スーパーダンガンロンパ2に関する重大なネタバレを含むので注意してください。




狛枝凪斗、について話します。ずっと秘密にしてきたけれど、そうでもしないと私の望みを叶えてくれないんでしょ?そう、超高校級の絶望、江ノ島盾子の手を移植した変態。

「かなり、エキセントリックな人物だったと聞いているわ」

冷静な声に、スチールデスクの角を見つめたままの女は笑う。向かいに座っていた育ちのいい男は指を神経質にデスクに叩きつけながら、交友関係が深かったのかと聞いた。隣に立つ、額に縫合跡の残る男はライトをぐいっと引き寄せて、日向創が女、みょうじなまえにそれを向けるとなまえは正面の十神白夜に向けてうっそりと微笑んだ。
「違う」
十神と日向が眉をひそめる。
「…セックスをするような関係、だった。と、そういうのが正確」
眉をひそめたままの二人に変わって、冷静な霧切響子が恋人同士とでも?と聞けば、なまえは顔をのろのろと下した。
「人工希望、そのライト、眩しい」
寒々しい聴取室は4帖ほどの広さしかなく、スチール製のデスクにデスクライトがあるだけだ。なまえの呼び名に苛立ちを隠し切れない日向にかわって霧切がライトを下げる。

狛枝凪斗の話をします。となまえは俯いたまま繰り返した。アイツの才能は、苗木誠さんと同じ幸運です。苗木さんと言葉は同じなのに全く違います。狛枝は死神と言う言葉がぴったりです。十神はふんと鼻を鳴らす。
「その男と出来ていたんじゃないのか」
あけすけな物言いに霧切が鋭く睨んだ。なまえは膝の上で握っていた手をゆっくりとデスクの上について、十神を見た。暗がりの中で妙に冴え冴えとした目に霧切は息を密かに殺す。なまえの中には今でも絶望の影はあり、それは希望更生プログラムで上書きされてなくなるはずのものだった。みょうじなまえは生きるバグと言ってもよかった。プログラムから生還した彼女は、自らが絶望だった記憶も、コロシアイの凄惨な記憶も、更生プログラムの平和な記憶も、すべてを有していた。プログラムの中枢を担うアルターエゴのはじき出した答えは、なまえの超高校級の記憶力の影響によるものということだった。霧切はちらりと部屋の鏡を見た。それはマジックミラーで、向こう側には苗木がいる。
霧切の視線を追ったなまえは、鏡へ顔を向けた。
「いるんでしょう。苗木さん。貴方も聞いてほしいんです。」
狛枝のことを聞いて欲しいんです。アイツがいう絶対的な希望の象徴の貴方に。絶望を打ち倒した、アイツの希望に違いないだろう貴方に。
「聞いている。さっさと話せ」
十神は腕を組んでなまえを促した。カチンと唐突に電子音がして、壁設置されたスピーカーから苗木の声がする。
『みょうじさん、話してみて、信じるから』
苗木がいうと、なまえは無表情だった顔に子供のような笑顔を浮かべた。霧切は気付く。なまえはこの言葉を待っていたのだ。
つまり、信じられない話ということだ。相変わらず苗木の洞察力というか、無意識の人心掌握は感服する。
「苗木さん、ありがとう」
なまえは鏡に向かって、繰り返した。

狛枝凪斗の話をします。





皆さんは全て監視カメラを通して見ていたでしょうし、そこの人工希望は実際一緒に過ごしてきたから、アイツの人格を今更話すつもりはありません。一言でいればイカれてます。長身で、顔はモノクマお墨付の美形で、声もいいでしょう。常時笑顔で、話し方も穏やかな方です。徹底的に自虐的のくせ自信家で、あのコロシアイ裁判からわかるように、頭も切れます。切れ方が斜め上四十五度絶望方向希望行きって感じですけど。あんな死に方しくさるようなやつですから根性もあるんでしょう。その美点を全部潰すくらい酷い変態です。
異常者です。
エキセントリックなんて生温い。
異常なんです。アイツ。
普通じゃないんです。
私は普通です。いや、希望ヶ峰学園に超高校級の記憶力と才能を名付けられるまでは、普通だった。平均中の平均、普通の中の普通。少しテストの点が良いだけの一般人。苗木さんにはわかるかもしれません。あとそこの人工希望も。あのコロシアイ修学旅行でもどっきどき修学旅行でもどっちでもいいですけど、はじめから最後まで普通な私のほうが異分子だったと思う。小泉さん 辺りは割りと普通に近い感性だけど。私は積極的に遊びに行こうみたいなタイプでなくて、小泉さんみたいな人に引っ張られていく方です。協調性があって付き合いのイイ。あの中で私は浮いている気がした。
そんな私を最初に気にかけてくれたのが狛枝です。アイツがそんなことをするときは必ず理由があるんです。ただ自分の才能に自信を持てない同級生を心配した、とかそういうことじゃないんです。私が希望になり得るか気になっただけです。
アイツの才能は代償型ですから。狛枝は自分で獲得したコントロールできる才能に憧れがありますから、結構純粋なんです。方向性おかしいですけど。最初のコロシアイの裁判で、あの異常性が出まくって左右田と弐大に縛られて旧館にぶっこまれました。危険人物扱いです。それでもなんでもないって顔してたでしょ。

いつものことなんですよ。アイツからしたら。

飛行機がハイジャックされて隕石がぶつかってもアイツだけ生きてます。運任せでくじ引きして当たりを引当ます。コロシアイで十神、いや、貴方ではなくて、詐欺師のほう、なんかアイツの代わりに殺されました。周りが全滅しててもアイツだけニコニコと生きているような事態になったらどうなります?そんな九死に一生を得るみたいなこと。アイツの人生ではそれが普通なんです。何度もあったらどうだと思います?狛枝自身の言葉を借りるとね。

「なんでお前だけいつも生きているんだ?って死神を見るような目で見られるようになるんだよ」

お得意の自虐付きで。

「ねぇ、みょうじさん。周りを責める気にもならないよ。ボクみたいな価値もないゴミ虫が生き残って、ボクが死んでおけばよかったのにね」

ああ、本当に狛枝、マジ狛枝。心底頭おかしいんですよ。でもね、考えれば理解できるんですよ。自分がアイツみたいなことになったら。 幸運の前に必ず不運が来るのなら。
何かにつけて爆発したり、隕石が飛んできたり、友達がペットが両親が死にまくったり、その後宝くじに当たりまくったり、多額の保険金を得たり、そういうことが頻繁に起こったらどうですか?
貴方、頭おかしくなったりしませんか?
私は自信ないです。頭おかしくなると思います。
私って特別仲の良い親友はいなくても同級生の携帯番号全部知っているようなタイプなんです。誰かに特別好かれる方でもないけども、誰にも嫌われないっていうか。…まぁそうね、うん、人工希望の言うとおり、私も狛枝と同じで、誰とも結局距離を縮めていないだけ。誰とも特別にならないから誰にも嫌われない。
コロシアイ修学旅行みたいな環境に置かれると、できるだけ相手のことを知らないと逆に怖いんです。だっていつ殺されるかわからないから。お互いのことを信頼してとか、キレイ事言いながらね。皆と平等に仲の良い私に狛枝がこう言いました。
「みょうじさんって本当に外面がいいね」
って。ニコニコと満面の笑みで言うんです。バカみたいにぬるいことがキミの希望なんだね、ボクは好きだなぁって言うんです。気持ち悪いでしょう?
人って五人くらいあつまると、三、二くらいの小グループになるでしょう。終里さんと弐大、左右田と九頭竜と田中、たまに花村が加わって、ソニアさんと辺古山さん、なんだかんだ西園寺さんと小泉さんと罪木さん、澪田さんはそうだな…十神…ああ、こっちの詐欺師の十神といたかなぁ…こんな感じでね、朝のレストランの席がなんとなーくグループになってくる。見ていたんだから知ってるでしょうけど。朝食の席、私はいつもそこの人工希望と七海さんと狛枝です。コロシアイの時はほら、狛枝滅茶苦茶キモいから。誰も声かけないし、でも一人でいられると怖いから。誰かが面倒見ないといけなくて。アハハ、え?おかしくない?いやなんかもうおかしくなってきて。
だって、やぁ希望の朝だねって、殺しあって学級裁判の翌朝もこれですもん。それでも皆どこかでわかってるんですよ。学級裁判でクロを言い当てないと皆殺しになるから。狛枝はどっちの味方だよっていうか、寧ろお前がクロだろって感じなんですけど。なんかもう裁判の時にはクロがわかってみたいなところあったし。
面倒くさいのと、気持ちが悪いのと、それでも頼りにしてるから。狛枝に誰かかまってやれよって空気があるんですよ。一人で置いとくと何するかわかったもんじゃないし。
なんでそんな気持ち悪いやつと寝たのかって?十神さんは辛辣ですよね。言ったでしょ。皆、アイツが気持ち悪いんです。アイツの方もあんまり寄って行かないし。コロシアイの時なんかカンッペキに浮きまくってましたし、どっきどき修学旅行の時もわりと浮いてる。何度やってもアイツのらーぶらぶ度マックスまであげられるの私だけですよ。あはは。狛枝、どこに誘っても言うことが怖いでしょう。軍艦に乗っても魚雷が撃ち込まれる可能性あるとか、海に入るとか間違いなく溺れるとか。高校生にもなって砂浜でお城つくって遊ぶのを付き合うようなのは私くらい、私と七海さんくらい。
ああ、七海さんとは割りと気が合うみたいっていうか…七海さんはゲームくらいしかしないから、プログラムとゲームして勝てるわけないし。皆七海さんと対戦するとか段々避けるのに、狛枝は変態だから。超高校級のゲーマーにフルボッコにされるなんて最高だよ!とかいいながら喜んでメタメタにされてる。ああ、話がそれましたね。
狛枝、友達、私しかいないんです。
七海さんはプログラムだからあそこから出てこれないでしょ…まぁアイツなら二次元が友達っていうのもアリかな。私にとっても、人生で初めて出来た特別な人です。なんで私、こんなに普通なのに初めて出来た恋人、アレなんですか?でもね、もうなんか。みょうじさんみょうじさんって滅茶苦茶鬱陶しいし、希望の朝から始まって嫌われちゃうになって、ゴミ虫ときて希望の踏み台にしてとか気色悪すぎて癖になってくるんです。採集が休みの日なんか、アイツ基本的に私にしか誘ってもらえないから。誘ってやるともう気色悪いのなんの!
嬉しいよ、ボクみたいなゴミ虫を誘ってくれるなんて、ああでも嫌になったらいつでも帰ってくれていいんだよ!
長々と予防線はりまくるんです。アイツ、友達いないから。私に嫌われたら全く友達ゼロ。七海さんのみ。二次元のみ、マジ乙。でも狛枝って頭もいいし、顔立ちとか綺麗だし。黙ってって言えば、みょうじさんが黙って って言うなら黙っておくよ!って黙りますよ。

あの気色悪さが可愛く見えてきちゃったんです。

終わってるでしょう。私もそう思います。みょうじさんはどんな希望を見せてくれるのかな、学級裁判素晴らしかったよ!キミならボクをコロして逃げ切れるよ!ボクに任せてよ!ボクがキミを最高に輝かせてみせるよ、みょうじさんみょうじさん!キミは希望なんだ。うんぬんかんぬん。気持ち悪いから黙ってろっていえば、うんって頷いてお口チャックするんです。もうかわいくって。私が言えば人も殺すのって言ったら、うんって頷いて。コロシアイの時のあの異常な精神状態で私も相当切れてたから。あんまり狛枝が鬱陶しいから、アンタ、私の靴も舐めれるのって、つい。そうしたら別にいいよって。止めろって言ってんのに本気で舐めてきて、私の足下に膝をついて。

「ボクが本気だってわかったでしょ」

だから殺してって。気持ち悪すぎておもいっきり蹴り飛ばした。私、連日のコロシアイで切れてたし、人間死に直面すると子孫を残そうとセックスしたくなるって言うし、プログラムでの経験をカウントしてもいいのかわからないけど。床で滅茶苦茶やった。泣かしてやるって思った。だって狛枝、殴っても血を流しながら笑ってそうでしょう?殴り殺してくれるの?って。
そういうことしても翌朝には、やぁ!希望の朝だね!って。絶望病の時は、みょうじさんなんか大嫌いだ、キミといるなんて耐えられないよ!って。アイツの症状は嘘つき病だったじゃないですか。つまり、大好きって。みょうじさん大好き。キミと一緒にいたいって。真っ青な顔して。あんなのがかわいく見える私のほうがよっぽどイカれてるのは自覚してた。その上、ほら、私たちが超高校級の絶望だってファイナルデッドルームでアイツ知ってから、手のひら返して「ウザイよ、この偽物の希望」みたいな。そのギャップにも萌えた。おかしい?自覚してますよ。ムカついたから口の中に舌突っ込んでやったら、僕の幸運でコロしてやるとかいいながら悶てやばかった。絶望しただろうな。仕返しなのかしらないけど、自分のこと滅茶苦茶に切り刻むとか、狛枝っぽい。でも、今になって思えばアイツの判断も正しい。だって未来機関は一度は絶望の残党である私たちを処分することを考えたはず。狛枝にはわかっていた。あそこにいたメンバーは狛枝を含めて全員絶望で、一人だけ裏切り者、プログラムである七海さんがいた。モノクマの言う裏切り者、七海さんはイコール未来機関だから希望側だ。一人でコロせるのは二人までだから、裏切り者を生かすにはどうするのか。頭の良さが物騒なんです。え?ああ…殺されそうになったって言うか、明確な殺意だけど、狛枝を許せるのかって?許す必要もない。こんなに話しているのに全然わかってくれないんですね、十神さん。狛枝が許されたがると思いますか?どうして?って言いますよ。どうしてみょうじさん?だってみんな絶望に落ちたんだよ!それが希望のために死ねるなんて素晴らしいじゃない!何をボクが謝らないといけないの?って言うに決まってますよ。それなのに。

アイツ、私たちのこと殺そうとしてたくせに。

そのこと、絶対覚えているのに。嫌われたくないっていうんですよ。

ああ、口が滑ったかな。本題はそっちじゃないけど。みょうじさんに嫌われちゃうなんて耐えられないよって。絶対に言いますから。賭けますよ。狛枝、私のこと大好きだもん。



『どうして、みょうじなまえは狛枝凪斗が希望更生プログラムから卒業するのを妨害するのか』



でしたね。ずっと隠してきたけど。アイツの才能、舐めないほうがいいですよ。更生プログラムは、強制リセットされると以前の記憶がなくなって新しいプログラムの内容で上書きされる。私は超高校級の記憶力によるバグでしたっけ?私はリセットされても記憶の上書きが途中からだんだん有効にならなくなった。他のメンバーは皆上書きされたのに。何週目かに確かに気が付きました。気がつくに決まっている。
狛枝凪斗の才能は代償型なんです。アイツは自分の不運幸運を完全にコントロールできない。今、アイツに記憶の上書きがされないエラーは不運ですかね?幸運ですか?アイツにはね、あり得ないことが起こりまくるんですよ。はぁ?話聞いてた?日向。
狛枝が本当に目を覚ましたいと思っていると思う?
ああ、でも、狛枝の「友達になって」と伸ばされた手を一度は取ったのに、理解できないからと突き放したアンタにはわからないだろうね。所詮作られた希望。狛枝に愛される訳がない。嫉妬?別に、してない。だって、アンタは狛枝から逃げたもん。敵意すら持ってない。
話が逸れましたね。

…思うわけがない。あの何周も繰り返した修学旅行。狛枝の酷い不運が誰かに発動していますか?していないでしょう?アイツ、絶対気がついた。
このプログラムの中では、狛枝凪斗の幸運は誰も殺さない。物騒なことは絶対に起こらない世界だから。ハイジャックも隕石も誘拐もなし、なしなしなし!毎朝が希望の朝ですよ。そもそも妨害する必要なんかないからしてないですよ。狛枝はね、頭おかしいから、友達私しかいないから。





「…狛枝くんはなんて言ったの?」





静まった聴取室に苗木の声が響く。気がつけば分厚い扉が開いていて、廊下の蛍光灯の明かりがなまえの足下に伸びていた。

「ボクみたいなゴミと一緒にいてくれるモノ好きなお人好しは、みょうじさんだけだね。だからボクから離れないで」

ずっと秘密にしてたけど。なまえはそう狛枝の口調を真似て答えた。
「かわいいでしょ」
かわいいでしょ、滅茶苦茶かわいいでしょ。私の狛枝はかわいい。こんなにかわいいこと言ってくれるの私だけの秘密にしたかったけど。愛しちゃったんだもん。離れないって誓ったんだもん。だから、狛枝が望むから絶望のしようもないプログラムから、出してやらない。

アイツの希望も絶望も、不運も幸運も、アイツほら、私しかいないから。狛枝凪斗にはみょうじなまえしかいないから。 みょうじなまえには狛枝凪斗しかいないから。
だから、出してやらない。私がプログラム入った後電源切っていいから、早く、アイツのところへ帰りたい。狛枝、友達いないの。七海さんとはうまくやってるけど。七海さんも狛枝と二人じゃ大変だし。私がいないとさ。狛枝マジ狛枝。二次元としか遊べないとか終わってる。アイツの携帯電話絶対私の番号しかないもん。一人でずーっと砂浜で座ってたらどうすんだよ。だからもう帰らなくちゃ。
他の人はいいよ。もう起こしてあげたじゃん。私、皆に好かれるけど親友ってできづらいし、狛枝かわいいもん、みょうじさんみょうじさんって、愛してあげると死んじゃう死んじゃう大好き大好きってやばいもん。アイツ、やばいから何するかわかんないよ?私がいないと自殺とか絶対するよ。だって誰か死んだらあのプログラム強制再起動じゃん。気が付かなくても正解引くに決まってるでしょ?アイツの才能。あはは。ほんとアイツ、やばい。ほんと、もう電源切ってイイから。

私の狛枝が待ってるの。

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