私は決して周りの人間を騙しているわけではない。私という人間を形作る上で、必要な情報を開示していないだけだ。小難しいことを言ったけど、要は秘密が多いということ。

真選組勘定方、みょうじなまえ。私の肩書きは大層仰々しくて、なんだか笑ってしまう。いわゆる平和な事務職だ。とは言え、特殊警察と銘打たれた真選組は、血生臭い任務も多いし人手が足りないときは私も駆り出される。そして総悟と一緒に色々ブッ壊して始末書を書く。副長は破壊魔の私を内勤に据えたと言い張っているけど、本当のところは違う。私の素性が知れないから、表には出さないだけ。そんなこととっくにわかってるのに、彼はそのくだらない理由を秘匿している。馬鹿みたい。

昔大きな戦争に参加していたことは、今でも黙っている。嘘をついてる訳じゃない。聞かれなかったから、言わなかっただけ。銀時も晋助も小太郎もとても大切な友人だけど、彼らのことも言ってない。辰馬は別にテロリストじゃないけど、彼を辿って私のことがバレるのは都合が悪いから言ってない。全部言ってないだけ。

女心は移り気が激しいと揶揄されるけど、それには絶対的な根拠がある。私は大切な友人たちに置いていかれた。松陽先生が死んだあの日に、私は色々なものを失ったのだ。彼らは私を連れて行ってはくれなかった。銀時は行方不明、晋助と小太郎はテロリスト、辰馬は宇宙へ。それぞれの場所に旅立ったと言えば聞こえはいいけど、別れも告げずに消えてしまえば、捨てられたと思っても無理はない。涙は止めどなく溢れて、喉から血が出るほど泣き叫んでも手元には何も残らない。泣いて、泣いて、泣いて、晋助がたった一本残していった煙草に火をつけた。それは私の肺の奥に届いて、そしてやっと泣き止んだ。あの日から涙は流していない。他人を信じられなくなり、傷付けることすらいとわない。そんな風にして、私は少しずつ強くなったのかもしれない。ならざるを得なかったと言う方が正しいか。

そうして辿り着いたのは真選組。別に何でもよかった。私を捨てた彼らへの復讐というつもりでもない。信念も忠義もない。ただ生きるための手段。この身一つを武器にして、這い上がる覚悟はできている。

***

近藤さんは私の新しいボス。忠義の無い私には、彼の言葉だけが全て。今を生きるための理由をくれるのは彼だけ。総悟は悪友。姐さんと言って慕ってくれている。お酒飲んだり、馬鹿みたいな話で笑って日々を彩ってくれる。手のかかる弟のような彼を欺くのは、少し気が引ける。本当の私を知ったら、彼はどうするだろう。案外ナイーブだから、傷つけてしまうかもしれない。ドSなくせに打たれ弱いもんねえ。山崎は優等生。よくドヤされている割りにそつなく何でもこなす。彼の気遣いは、もう何も信じたくない私の心をこじ開けようとする。気を抜けば、吐き出してしまいたくなる。しまるちゃんは、よくわからない。何も喋らないから。でも私の話をよく聞いて、何でも受容してくれる。副長は唯一私を疑っているから侮れない。探りをいれてくるけど、とりあえず交わしている。この前私から誘ったのは、単なるハニートラップじゃなくて、寂しかったのかもしれない。誰にも言えない孤独をセックスで埋めたくなることもある。未遂だけど。彼の大きな手は暖かかった。

2年もいれば情が移る。線引きをしたつもりでも、どうしたって信じたくなる。私は強いと言い聞かせてきた心は、いつしか綻んでガタがくる。葛藤は心を蝕み、罪悪感を生む。私は新しい友人を求めてもいいのだろうか。そのくせ、晋助の情報は握りつぶしついる。先の祭りで邂逅した彼を見逃したのは、私の罪。あのとき、私は真選組を裏切った。真実が知れたら、彼らは私をどうするだろう。

粛清に来るなら、やり返す。私が誰につくかは私が決める。一番可愛いのは自分だもの。だからあの4人も、私を捨てたんでしょう?私もそれに倣うわ。欺くのも裏切るのも、慣れてる。昔から悪女悪女!と囃し立てられた。誰が最初に言ったんだっけ?ああ、晋助か。お前に言われたくねーよって感じだわ、ほんと。

ああ、情けない。芯がブレてる。私らしくない。

あの日から煙草が手放せなくなった。燻るような晋助の香りが忘れられなくて、ずっと同じ銘柄と決めている。煙を吐き出すと、それは部屋の中をゆらゆらと漂って消えてしまう。ぼんやりと過ごす昼休憩に、出口の無い思考が始まってしまった。時間を無駄にした、もったいない。

トントントンと襖を指で叩く音がする。部屋に入るときに声を掛けないのはしまるちゃんだ。こんな昼日中に珍しい。私はどーぞと気の抜けた声を返す。静かに襖が開いて案の定しまるちゃんが顔を出した。

「なあに、しまるちゃん」

彼はやっぱり無言のまま、手に持ったお盆を示した。

「え?お茶入れてきてくれたの?」

頷く彼は何を考えているかわからない。それでも二つの湯飲みから漂う湯気は、すきま風に冷える身体を暖めてくれそうだ。

「ありがと、飲も飲もー!」

ほんの少し瞳を和ませた彼は、私の横に座って何も言わない。この静寂は心地いい。

きっと時間が解決してくれると楽観的に構えている。誰につくかは心のままに。軽蔑されても失望されても、決して傷つかないと、それだけは誓おうと思う。



召しませアラカルト



秘密は秘密のままがいい。


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