うっすらと残る記憶の中、ほっそりとした白い手がわたしを包んだことを覚えている。それはとても曖昧で漠然とした記憶だけど、あの優しいぬくもりを今でも忘れていない。

「ねぇアレン、覚えてる?」
「ん?」
「わたしがあなたに初めてあったときのこと」

そう言って、淡く微笑むとアレンは小さく頷いた。

「……覚えてるよ」
「あの日も、今日みたいな吹雪だったよね……アレンがわたしを救い上げてくれたとき。あなたがわたしの頬を包んでくれたあのとき、わたしは真っ黒な悪魔が迎えに来たのかと思った」
「悪魔は……ひどいなぁ」
「うん、ごめんね。でもね、あのときは本当にアレンが悪魔に見えたんだ。悪魔がわたしを迎えに来てくれたんだって信じた」

エクソシストの服を来たアレンを悪魔だと思った。だって、全身真っ黒なんだもの。間違えてしまうのもしょうがないじゃない。
悪魔が来たことを喜ぶなんてふつうじゃないっていうのもわかってる。それでも、あのときは確かにようやく死ねるって、生きることを頑張らなくてもいいんだって安心したのよ。
だって、わたしは神を信じてなどいない。
神にどれだけ祈ってもお腹が満たされないことを知っている。祈りなんてただの気休めにしか過ぎないのを知っている。

「実際は、アレンは悪魔じゃなくて神だったけど」
「僕は神じゃありませんよ。神の使徒です」

そう苦笑するアレンにわたしは微笑んだ。
わたしのなかに聖書や人々に語り継がれる神はいない。
いるのはただ一人、あなただけよ。
生きることを諦めていたわたしを助け、生かしてくれたアレン。絶望を希望へと変えてくれたあなたの存在にわたしがどれだけ救われているか。きっと気づいてないでしょうね。

「アレン、ありがとう」

あなただけがわたしの生を許してくれた、ただ一人の神様なのよ。

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