スーパーダンガンロンパ2に関する重大なネタバレを含むので注意してください。




ガタン、ゴトン。
電車は一定のリズムを刻みながら運行している。
電車の中には、帰宅中とみられる一般人がいるだけで。
皆ケータイをいじったり、目を閉じたりしていた。

私の横にいる人も、そんなうちのひとりで。
さっきまでは起きていたのに、いつの間にか目を閉じていた。

(やっぱり、疲れてるよね)

自分も彼も未来機関の下っ端だし、絶望もとい自分たちのせいで破壊され尽くした街の復興に罪滅ぼしの為力を入れているから休日はほぼない状態。
自分に至っては絶望を更生させる活動もあり、貴重な休みでも仕事が入ったりするくらいだ。
今日だって仕事が入っていたし、謝罪の挨拶回りもあった。
明日も仕事はあるのだろう。
しかし、なぜか行きたくなかった。
何もかも投げ捨てて、ひとりで何処かに行ってしまいたかった。
けれど、そうすることはできなかった。

手に握っていた切符を見る。
やっと復旧した電車の駅で一番高い一番端の切符を購入し、何も思わずに飛び乗った。
幸いその電車は終点まで行くらしく、終電間際の為人も少なかった。

本当は、隣で眠る彼を誘うつもりなんてなかった。
何もかも投げ捨てて何処かに行くのなら、尚更。
自分が知らない場所にひとりで行くのなら、誘う意味なんてなかったのに。

ガタン、ゴトン。
電車が停車して、駅に着く。
乗っていた人は皆此処の駅で降りてしまい、車内には自分と彼以外いなくなってしまった。
ひやりとした夜特有の空気がはいってきて身震いをする。

ドアが閉まり、電車は次の駅へと走り出す。
他の車両を少し覗いてみたが、誰も乗っていなかった。

「…寒い」

窓の外には暗闇と、知らない街。
復興した都会から少し外れたところのようで、更地が広がっていた。
まったく知らない場所で、終電間際で、泊るところなんてなくて。
どうしようかな、なんて暢気に考えているとケータイが震えた。
煩わしく思いつつみてみると、発信源は元後輩兼直属の上司(優しくない方)で。
電車内だけれど人がいないからと、通話ボタンを押した。

『おい愚民今日は貴様らの謝罪周りだと言っただろう!!』

耳にキーンとくる上司の声に苦笑する。
どうやら他も集まっているらしく、優しい方の上司の私たちの身を案じる声も聞こえてきた。電話口から漏れる声が変わる。

『名字さん、何処にいるの?』
「…さあ、わかんないです。すみません、今電車なので」

え名字さん、という声が聞こえたが、無視して通話を切る。
電源を落とし、機能しなくなったケータイをポケットにしまいこんだ。
心配してくれているのだろうけれど、今はその心配すら煩わしかった。
何もいわずに電車に乗った自分も悪いが。

居心地が悪いわけではない。
昔の絶望更生プログラムから戻ってきてすぐの時に比べたら苗木たちの交渉のおかげで人権も認められたし、生活も充実している。
自分でもわからない。

ガタン、ゴトン。
目を閉じて、電車の振動する音を聴く。
そうしていると、どうやら終点に着いたようで。

「…狛枝起きて。着いた」

隣にいる彼をゆすり起こす。
一度揺らした程度では起きないぐらい疲れているのだろう。

(…この電車って、終電じゃないからまた戻るよね)

疲れている時に無理やり呼び出して、無理やり付き合わせて。
いくら恋人とはいえ、怒って当然だろう。
幸いにも回送ではなく、元の場所に戻るようで。

「…おやすみ、さよなら」

触れるだけのキスを額に落とし、肩に触れていた手を外す。
扉が閉まる前に出なければと思い、少し早足で足を進めた。

駅のホームは人ひとりおらず、がらんとしていた。
駅員も帰ってしまったようで、シャッターが閉まっていた。
持っていた切符を通し、改札から抜ける。

(そういえばなんで切符を買ったんだろ)

財布の中に未来機関に支給された定期が入っていたことを思い出して、ひとりで笑った。

電車の発車する音がして、それが過ぎるとシーンと静まり返ってしまった。
世界中にひとりだけみたいだ、という表現ができそうなくらい、静かで。
駅から一歩出ればそこには家屋と更地が広がっていて。
上を見れば、此処は本当につい最近まで絶望に破壊され尽くした街かと言いたくなるようなほど、透き通った星空が。

「…世界中にひとりだけみたいだ」

ぽつりとこぼして、スーツのジャケットの前を深く合わせる。

「残念ながらひとりじゃないよ」

寒いね、なんて言いながら、さっきの電車で帰った筈の彼がいて。

「…狛枝」
「君さあ呼び出しといて放置はないでしょ」
「起きなかったから、つい」
「ついじゃないよて言うか起きてたよ」
「返事なかったから寝てると思ったの」

いつの間にか彼は私の隣に来ていて。
私の手を握りしめて、顔をしかめながら「…冷たい」とぼやいた。

「で、どうするの。もう終電ないよ」
「そうだね…どうしようか」

あてもなくただぶらぶらと肩を並べて歩く。
車も人もまったく通っておらず、進んでいくうちに家屋も減っていった。

寒い、とぽつりとこぼしながら、手を近付ける。
そうしたらゆっくりと繋がれて。
そのぬくもりにああ、彼は生きて確かにここに存在しているんだと思わず頬が緩んだ。

ゆっくりと手を繋いだ状態で足を進める。
行先なんてなくて、たどり着く宛てもなくて。

そうしているうちに、帰りたくなって。

「狛枝。こっから歩いてあんたの寮まで帰ろ」
「はあ?何時間かかると思ってんの。」
「でも駅に近いのは未来機関の男子寮の方だし」
「いや関係ないでしょ」
「いいじゃんかたまには。狛枝泊めてよ」
「…いいけど。今から帰ったらどれぐらいかかるだろうね」
「1日もかからないから大丈夫だよ」
「……はあ。ほら、帰るよ」

繋がれた手はそのままに、来た道を引き返して。
駅はもうしまっていたから、きっともう終電を過ぎてしまったのだろう。

「歩いて帰るのめんどくさい。とりあえず歩くけど始発始まったら乗って帰るよ」
「…それまで待つの?」
「待たないよ」

手をひっぱられて、二人で線路に沿って歩き出す。
繋がれた手はそのままだった。

「じゃあどうするの」
「とりあえず歩く。それで駅までいくよ」
「もう駅だよ」
「馬鹿でしょ君。始発の時間まで歩いて別の駅行くの」
「それで?」
「それで、始発の時間についた駅で電車に乗ればいい」

元絶望二人が深夜に手を繋いで、復興した線路沿いを歩くだなんて中々おかしな話だな。
ひとりで笑っていると、何笑ってるの、と少し拗ねたような声が聞こえてきて。


「…ひとりでこなくてよかった」


ぽつりとこぼしたら、握られている手に力が込められた。
その優しさが幸せで、また笑みがこぼれた。

この人となら、何処までもいけるとこの時初めて確信した。


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