夜が好き

いつから夜が好きかなんて事は覚えてないけれど毎日眺める夜空に今日も心奪われていた


時間は22時を過ぎた頃だろうか?
いつものように財布も携帯も持たず、部屋着のラフな格好で小高い丘にあるにある公園に来ていた

あまり人も来ない静かな空間で、少し離れた場所の住宅から漏れる灯りを眺め、私だけが世界に取り残されたような感覚に陥る
その時のちょっと切ないような気持ちも好きだ

たぶん変わってるんだと思うし、事実彼にも以前『おめさんちょっと変わってるよな』と言われたのは記憶に新しい

しばらく街並みを眺め、月明かりに照らされた遊具に向かう

この歳になっても何となく遊びたくなる私が子供なのか、遊具が魅力的なのか、この公園に来たらつい遊んでしまう
今日は何にしようか
ブランコにするか、滑り台にするか…

数秒悩みながら、ふと耳を澄ませば僅かに聞こえる車輪の音

決まり、今日はかくれんぼにしよう


車輪の音が大きくならないならないうちに、と周りを見渡し最初に目に付いた砂場の中央にあるドーム型の滑り台の中に駆け込みしゃがんだ

少ししてベンチに自転車を立て掛ける様な音と次いで足音

一瞬足を止めた気配がしたが直ぐにまた歩き出した

どんどん近付いてくる足音にドキドキしながら差し込んだ月明かりに照らされたつま先を眺めその瞬間を待つ


「やっぱりいた」


暗くなったつま先から視線を横に移すと、顔をのぞかせた隼人と目が合う


「そこは『みーつけた』でしょ?」

「かくれんぼだったのか、それは悪かったな」


柔らかい笑顔で差し出された手を握り、引っ張り上げられるように滑り台を出た


「なんで直ぐここに居るってわかったの?」

「簡単さ、おめさんの事なら何でもわかるぜ」


ウインクしながらお得意のバキューンポーズ


「はい、はい、そうでしたか」

「つれないなぁ」


とりあえず砂場から出ようと足を進め、ふと気付く
砂場には私と隼人の足跡があった


「…なるほどねぇ」


これは私としたこ事がうっかりしていた


「なぁ、」

「なーに?」


振り返らずに足を進める


「なぁ、名前」


手首を掴まれ、思わず隼人の方を向いた


「どうしたの、隼人?」


隼人は何だか苦しそうな、悲しそうな顔をしていた


「前にも言ったよな、夜出歩く時は携帯持ってけって」

「……うん」

「なんでそんな事言うか、おめさん分かってるだろ?」


こくり、と頷きそのまま俯いた


「夜だし、危ないからでしょ?」


掴まれたままの手首に僅かに力が入った


「もちろんそれも理由だけど、名前ふらふらとどこかに行っちゃいそうでさ」


顔を上げたら隼人は無理に笑っていた


「ごめんなさい」


隼人の厚い胸板に頭を付け抱きついた
掴まれた手はほどかれぎゅっと抱きしめ返してくれた

もちろん私は隼人にこんな顔をして欲しかった訳じゃない
ただ、ただ私が変わり者で、ひねくれているだけ


「夜や星空が好きなのは知ってるから出歩くなとは言わないさ、でも
ちゃんと俺の所に帰って来てくれよ?」


その言葉に素直に頷けない私はやっぱりひねくれている


「………隼人は、どこに居ても私を見つけてくれるんでしょ?」


「全く…名前はつれないなぁ」


ちょっと笑った隼人に笑い返してもう1回ぎゅっと抱き着いた


「隼人、一緒に帰ろう」



夜が好き

静かで、星や月に照らされた公園、キラキラと輝く街並み、澄んだ空気感、そしていつも私を見つけてくれる隼人

見つけてもらえたその時、私は幸せを感じる


だから私は今日も星空を眺めながらこの丘の上であなたを待つ


×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -