いつでも背筋を凛と伸ばし、サラサラと流れるその豊かな髪は彼女の美しさを助長している…彼女はいつでも佳麗そのものだ。

「へぇ〜そんなに綺麗な人が職場にいるんだ?」
「なんだか朱がそんなに人を褒めるのって意外。」

恒例のテラス席で恒例の友人二人との昼食兼報告会。いつもは仕事の愚痴を聞かせてばかりだから今日は少し明るい話でもしようと思い彼女の話を持ち出した。

「で、その人は上司なの?部下なの?」

目を爛々とさせ、少し興奮したように身を乗り出すゆきは本当にこういう話が好きだ。女として同性に突出した魅力を持つ者がいれば詳しく知って出来るだけその姿に近づきたいと思うのはごく自然の事なのだろう。

「その人も部下なんだけど…なんか本当に同じ女として憧れるくらい綺麗なんだよね」
「綺麗系なんだ?」
「うーん…どうだろう…見た目は凄い綺麗な人だけど別にクールな印象を持つような顔じゃないんだよね…性格は普段は優しくて可愛い感じかな?」
「でも仕事になるとスイッチが入るの?」
「うん、凛とした頼りある感じになるの」

最強だね、と笑った佳織に頷いてみせる。そう、彼女は最強なのだ。

「仕事場でも精神的な主柱っていうか…気難しい先輩がいるんだけど、その人にも信頼されてて」
「あ!じゃあいつも朱を困らせてる部下とは?どうなの?」

ゆきの言う自分を困らせている部下というのは間違いなく、狡噛の事で。

「ああ、その人とは付き合ってるんだ」
「え?!」
「やっぱり美人は彼氏持ちよねー」
「嘘っ!そんな問題児と付き合ってて平気なの?その美人さん」

問題児、と認識させる程自分は彼の愚痴を彼女達に話してしまっているのだろうかと自省しながらも常守は頷く。

「凄く愛されてるみたいで二人が並んでると…なんて言うのかな、美女と野獣…みたいな?」
「ええ?それってどうなの?」
「いやいや、本当にお似合いなの!」

あの二人は本当にバランスが取れた関係なのだろう。常守はそう確信していた。







『こちらシェパード1。狡噛、名字、聞こえてるか』
「んー…電波微妙だけど聞こえてますよギノさん」
「どうした、ギノ」
『犯人がそっちの区画にいる事が分かった。俺と六合塚も今から向かうが一先ず先に探していろ』
「了解です」
「分かった」

廃棄区画に逃げ込んだ犯人を日中から探さなければならないという状況下で名前は多少なりとも機嫌を悪くしていた。

「なんでこういう面倒な所に逃げ込んじゃうかなぁ…」
「見つかりたくないからだろ」
「大体、ちょっとセラピーするだけで好転する程度の犯罪係数なんだから大人しくセラピー受ければいいのに!」
「まあ名前、それは俺逹の立場だから言える事だ」
「…はぁ」

ドミネーターを腰に差したまま歩く名前の身体を狡噛がそっと抱き寄せた。

「…なに」

私は今機嫌が悪いんだとでも言いたげな声色で狡噛を見上げた名前を気にした素振りもなく、狡噛はその濡れた唇に噛み付いた。

「ん…っ、ちょ、慎也?!」

仕事には真面目な狡噛がこういった事をするのは珍しい。名前はどうかしたのかと問うために身体を離すがすぐにまた抱き寄せられて口付けられる。諦めてされるがままに暫くキスを受け入れていると狡噛は満足したのか身体を離して名前の手を引いて歩き出した。

「何、なんだったのさっきの」
「嫌だったか?」
「嫌…っていうか、変。」

遠回しに嫌ではないと言われた事に気付いて狡噛は今すぐ押し倒してやりたい気持ちを抑え、名前を見る。

「廃棄区画の男どもが飢えた目でお前を見てたからな」

俺の女だと教えてやったんだと言った狡噛に名前は顔を赤らめる。

「そ、そんなの手を繋ぐぐらいでいいじゃん」

わざわざキスなんて…それにあんなに濃いものを。

「いいだろ、見せつけたい気持ち半分キスしたい気持ち半分でやったんだ」
「っ」

言うだけ言って黙り込んだ彼女を見ようと振り向くとそこには自分に手を引かれながら真っ赤になって拗ねたように唇を尖らせた名前がいて、それを不覚にも可愛いと思ってしまう。

「そういえば…」

以前常守が名前に酷く憧れていたのを思い出して狡噛は少し笑う。こんなに可愛らしい一面を見たらきっと彼女の憧れはまた違う感情に変わるのだろう。それが親近感か、はたまた…

「名前」
「…なに」
「奴だ」
「!」

走っていく犯人を見つけてそれを追い詰めようと冷静に正確に動く名前の横顔を見ているとこれが常守の見ている名前なのだろうと思う。確かにこれだったら憧れるのも頷けるだろう。

「…ふっ」

もう暫くはさっきまでの愛らしい彼女の素顔は独占していたいと、男は密かにそう思った。


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