いつものように市中見廻りのついでにやってきた万事屋。ソファの上にふたり。今日も此処は平和だ。
わたしは銀さんの膝の上に頭を載せて、髪を梳かれる心地よさに目を細める。 白夜叉、と呼ばれていたことなんて嘘みたいに、わたしに触れる大きな手は優しくて、あたたかくて。

「ねえ、銀さん」

ぽつりと呟くように呼んでみると、パックのいちご牛乳から伸びるストローを口に咥えたまま、あ?と短く返ってくる。わたしを撫でる手もそのまま。銀さんは不器用だけど器用だ。

「わたし昨日、攘夷志士の潜伏場所に乗り込んだの。もちろん、仕事で」
「おう、」
「そこでさ、斬られそうになった」
「…」
「だけど土方さんが助けてくれた。あとで『お前は危なっかしい、覚悟がたりない』って怒られたけど」
「は、今回は土方くんに同意だな」

黙ってしまった。というか、わたしは銀さんになんて言って欲しかったんだろう。『土方くんにヤキモチやいちゃうよ』?それとも、『真選組なんてやめろ』?
どちらも違う。

ずずず、と銀さんの喉にいちご牛乳がすべて消える音がした。それでもしつこくストローの音を立てる銀さんのお腹に拳をやんわりと押しつける。
ちょ、飲んだの全部出るから、と笑う彼が愛おしい。くすりと笑った。
なんだか、時間が緩やかに流れていくみたいだ。銀さんとこの部屋にふたりきりの時は決まってそう思うから不思議だ。


「わたしが先に死んじゃったら、ごめんね」

小さく、本当に小さくつぶやいた。自分で言って、聞こえなきゃいいのにと思った。しかしこの静寂で拾われない声なんてあるはずがない。
わたしに目を落とした銀さんと目が合う。ふわふわの銀髪が明かりに照らされて、毛先が輝いて見える。この銀に血は絶対に似合わないなと、わたしを射抜く眼差しの隅でぼんやりと思う。
銀さんの手の中でいちご牛乳のパックがくしゃりと情けない音を立てて潰れた。飽きることなくわたしを撫でていた大きな手はいつの間にか止まっていた。

「そしたら俺が助けにいくからさ」

くしゃりと笑みで崩される表情のその彼に、わたしはどうすればいいのか分からなかった。
戸惑いを含んで銀さんの頬に手を伸ばすと、答えるように降ってくる唇。この体温を知らなければ、わたしは土方さんに『覚悟がたりない』なんて怒られなかったのだろうか。反芻しても、答えなんて出るはずなくて。
ただひとつ言えることは、わたしは今、どうしようもなく幸せだということ。

離れていった唇が不意に跡形もなく消えてしまう気がして、慌てて銀さんの銀色を両手で包み込むと、「銀さん、止めらんなくなるよ?」と眉を下げた彼にもう一度優しく噛みつかれた。

輝く全てに告ぐ


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