暖かな部屋でベッドにもたれてうつらうつらしていると、名前を呼ばれた気がしてゆっくりと目をあける。瞬きをしながらぼんやりと上を向くと、両手にマグカップをひとつずつ持った英が立っていた。

──眠いの?
──うん
──寝たらダメだよ
──だいじょうぶ

舌足らずに返事をすれば、はい、と苦笑をこぼす英からマグカップを差し出される。ありがとう、と両手で受け取とるとふわり、と甘い香りが鼻腔をくすぐる。あ、いい匂い。その美味しそうな匂いにつられてゆるやかな眠気が少しだけ覚醒する。

「場所あけて」

そう言われて少しだけ右にずれると、よいしょ、と隣に英が座る。その距離こぶしひとつ分。なんだかその隙間がひどく不満で、隙間を埋めるように無言でぴったりとくっつくとクスリ、と小さく笑う声。なあに?と問いかければ、別に、と返される。ふーん、と気のない返事をして、ゆらゆらと細く湯気が立ち上る液体に口をつければ柔らかな甘さが口に広がる。

「これなに?」
「キャラメルカプチーノ」

さらりと答えた英に、キャラメルカプチーノなんてオシャレなもの家で淹れられるのかと驚く。だけど、カプチーノですらキャラメル味なのは英らしい。

「英ってほんとにキャラメル好きだね」
「悪い?」
「ううん。わたしも好き」

そう言って、こてん、と頭を英の肩に寄りかからせる。英はけっこう細い見た目の割に節々はしっかりとしていてちゃんと男の子だ。それは、肩も例外じゃなくて頭をくっつけると少し硬い。まぁ硬いのは骨だからかもしれない。でもその硬さと高さがちょうどわたしの頭にあっていて好きだった。

「まだ眠い?」
「もう眠くない」

どうやら、肩を寄りかからせたのをまだ眠たいからと勘違いされたようだ。今は眠いんじゃなくて英にくっつきたい、甘えたい気分なのだ。そういう意思表示がうまく伝わっていないことが少し不満で、カプチーノに口をつけながらふてくされる。

名前、と名前を呼ばれて横に向くと、飲んでいたキャラメルカプチーノを取られてしまう。あぁ、と小さく不満げな声を上げれば、後で、と笑いを含んだ言葉。わたしの手を離れてことり、とテーブルに置かれるマグカップ。そちらに意識を向けていれば、いつの間にか目の前には英の顔。近づいてくるきれいな顔に驚いて思わず目を閉じれば、ほんのり甘いキャラメル味のキスが降ってきた。

「・・・・・・びっくりした」

そっと目を開けて、正直にそう言えば英が優しく笑う。その笑みに心臓がきゅうと疼いた。ゆるりと手の甲を撫でられながら、甘えたいんでしょ?と言われれば、自然と顔が熱くなる。何もかも、お見通しだったらしい。それが少しだけ悔しいけど、くっつくことに異論はないので、もう一度近づいてくる顔に今度こそゆっくりと目を閉じた。


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