※ダンガンロンパ2の重大なネタバレを含むので注意してください。



好きよ。
うそだ、と彼は言った。
 不快そうに眉間に皺を刻みながら、目を眇めながら、そうして周囲の桜と同じ色の唇を動かし言った彼の言葉はしかし、口から出てすぐにぽろりと二人の間に転げ落ちた。ほとんど無意識に出た呟きだったのだろう。言い直すように、狛枝が顎をくっと上げる。
「嘘だよ。」
「嘘じゃない。エイプリルフールはもうとっくに過ぎたもん。私は狛枝くんの不運で死ぬ事なくエイプリルフールから 27回朝を迎えれたの」
「そんな言葉にボクが騙されるとでも思ったの?」
「思ってないし、騙してるつもりもないよ?」
「どうだろうね。プログラムから目覚めた後、キミがボクに植え付けた不信感は、そう簡単に拭えるものじゃないよ」
「そんな不信感を与えるようなこと、私、したっけ?」
「とぼけないで」
 バン、と狛枝の右手がベンチを叩く。
「キミが絶望の更生と言う希望の為なら平気で何でもする人間なんだって、ボクは嫌と言うほど知ってる」
 チッと舌打ちをして、狛枝は未来機関のロゴの入った紙コップを左の義手で持ち上げた。ストローを銜え、緑茶を吸い上げる。
「......狛枝くんは、希望の為じゃなくても私に何でもするよね」
 ベンチに置かれた狛枝の握り拳を包み、もう片手で桜餅を口に運びながら呟く。狛枝が、大袈裟な仕草でどん、と紙コップを置いた。ストローの先が、歯に噛まれたままひしゃげている。は? と心底不快そうな、歪んだ狛枝の声がした。
「だったら何、て言うか今はキミの話でしょう」
「そうだね、私の話。で、狛枝くんはどうなの?」
「どうって......」
 途端、狛枝は動揺したように、視線をうろうろと彷徨わせる。何かを言いかけるように、桜色の唇が小さく動いたが、結局唇の内側から外へと言葉は出て来なかった。ぎり、と唇を噛み締め、狛枝が睨んでくる。
「どうもこうもするわけないでしょ、なんでキミの冗談を真に受けなきゃいけないの」
「冗談でも嘘でもないよ」
「嘘って言ってよ!」
 狛枝は憤然と怒声を張り上げた。一瞬、園内がしんと静まり返った気がしたが、ベンチに座るなまえが見る限り、公園には他に数人程度の花見客しかおらず、どうやら気のせいだったらしい。ほっと安堵しつつ、大声出さないでよ、と苦笑する。
 深く息を吐き、脱力したように狛枝が俯き、
「嘘って言ってよ、冗談なんでしょ、ねぇ、みょうじさん」
 ぽつぽつと花びらが落ちるように呟く。
「だから嘘じゃないって言ってるでしょ」
「なんで嘘じゃないの、ふざけないで、冗談じゃない」
 うそつき、となまえは思った。
 本当は、狛枝も同じ気持ちなはずだ。なまえは確信を持ってそう言える。しかし、狛枝はそれを認めることに、戸惑っている。不運の踏み台になると、怖がっている。だから否定する。
 狡い。
 そうやって、私の言葉まで嘘にしてしまおうなんて、そんなの、単なる逃げだ。
「逃げないでよ」
「......は?」
 目を細めた狛枝が、ほとんど息のような声を洩らす。
「逃げないで ちゃんと応えてよ。私の言葉は嘘じゃないって言ってるでしょ」
 狛枝の瞳がぐらりと揺れる。
「ちょっと素直になればいいだけ」
「うる、さい……」
「本当は嘘じゃない方がいいんでしょ?」
「違う、それは違うよ。....嘘な方が良いに決まってる、大体、そんな冗談、悪趣味だよ」
「ねぇ、狛枝くん」
「どうしてボクにそんなこと言ってくるの、訳がわか……」
「Happy Birthday」
ゆるゆるとネフライトの瞳が開かれ、それに比例するようにトクトクと脈打つ鼓動が伝わる。
潤んだ大きな瞳の中に映るのは桜並木を背中に微笑むなまえ。
「生まれてきてくれてありがとう」
春の陽気が差し込むベンチで、このまま繋いだ手から融けて混じり合ってしまえば良いのに。
「好きよ。」
 うそだ、と彼は言った。
 不安そうに眉尻を下げながら、目元を歪めながら、そうして絶望的に言った彼の言葉はしかし、口から出てすぐにぽろりと二人の繋がれた手の上に転げ落ちた。力のない、掠れた声だった。
 狛枝は、やっぱりうそつきだ。

うそ=幸運


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