彼女の指先は未だ真白だ。彼女の指先は桃色でなければ行けないというのに。けれど、彼女の白い息は酷く胸を打たれてしまう。理由なぞは分からないが、とにかく胸が高鳴るのだ。しかし指先は白く冷たい。一体冬は僕と彼女をどうしたいと言うのだ。



ゆびさきは桃色が可愛いね



──嗚呼、今日も酷く寒かった。


鳶色の髪の青年、リーマス・ルーピンはグリフィンドールに入った際に支給された茶に近い臙脂色と黄色が特色のマフラーを少しきつく巻き直した。如何せん歩いているとずれてしまい、縦幅の小さな横に長いマフラーであるだけで、首はさらし首になり地面にだらりと垂れてしまう。下級生の時は良くそれで顔面から地面へと求婚したものだった。自嘲気味に笑う。

そしてふと、左に空間がある事に違和感を覚える。

彼の傍には何時も、黒髪の彼女が立っているのだ。初めて人狼だと打ち明けた時も、初めて抱きしめようとした時も、笑顔になれた時も、涙を流した時も。ずっと傍に彼女が居た。彼女、というのはみょうじ なまえの事である。リーマスが入学した時からずっと、あの組み分けされる瞬間から。一目惚れという名の恋に溺れて仕舞った相手である。

それから色々甲斐あって、ようやく今付き合う事の出来た大事な大事な恋人であるのだ。リーマスを始めとした悪戯仕掛け人のジェームズ達を仲良い事で妬まれたりするのは良くある。しかし当然ながら、リーマスは友人も恋人も、馬鹿にしたり虐げたりすると物凄く激怒する人だ。

何度も今まで同じことがあり、彼は大事な愛するなまえをかばった。それは幸せと愛しさ故に行った行為で、見返りが欲しい訳では無い。正義を掲げた訳でもない。誰かの為に体を張るという事は、リーマスにとって憧れていた事で今生で一番幸せな事だった。



──だからかなあ


リーマスは立ち止まって、降るもうそろそろ終わりの雪をぼんやり見る。
なまえが傍に居ない事はとても不安で違和感があって、凄く居心地が悪いのだ。自分も大概彼女依存症だと笑うと、かりかりと自嘲しながら頭を掻く。──まあ、取り敢えず、彼女を探そう。この侭だと僕が不安で仕方無い。この湧き出る不安は一体なんだろうと首を傾げながら再びリーマスは歩を進めた。



***



「あっ、リーマス」


暫く外を歩いているとようやっとなまえを見つけた。
恋人のリーマスを見つけて、嬉しそうに走り寄って来る彼女は何だか犬の様だと思いながら彼も又走り寄る。こんな愛想の良い犬とあの何処かの黒い犬は全く違うなと悪態をついてがら空きの左隣に立ったなまえを見つめる。──寒いね、 なまえは両手に息をはー、と吐きかけてさすった。

──白い吐息、白い指先──

リーマスは酷く胸打たれた。彼女の白い指先は好まない。彼女は淡い桃色が似合うのだ。指先は桃色で、健康そうで無いといけない。しかし、だ。口から湧き出る白い吐息はこの上なく好きだ。彼女の吐息ですら吸い込んでやりたいと思う程に好きだ。じっと魂を吸い取られた様に眺めていると、なまえは手を擦るのをやめて恥ずかしそうに微笑んだ。


「あッ、──寒い、ね」ハッとリーマスは現実に引き戻される。
「うん…寒いねえ」


ぼんやりと彼女はまた白い息を吐き出した。今度は何もない白い雲を眺めながら、上向きに息を吐いた。──嗚呼、彼女は全く気がついていない。その仕草に僕がどれだけ悶そうになっているのかが。 だが今度は、リーマスは彼女の手袋も何もしていない真っ白な指先を視線を落として見つめる。


「手、冷たくない?」


ふいに問いかけてみると、なまえはあっと声を上げて、また擦り、思い出した様に忘れちゃった、と弱々しく微笑んだ。手袋を忘れてしまったと笑う彼女が愛おしい。そうして自らのダッフルコートのポケットに手を突っ込む仕草ですら。大方末期だ、リーマスは呟いた。

そして、ぐい、っと彼女の手を引く。冷たかった。


「リーマス───」


たどつくなまえ等知らん顔でリーマスは更に掴んだ右手に力を強く込めて、左手で此方に引き寄せた。当然リーマスの男の子の力に抵抗出来る筈も無く、ぽすんと小さな体のなまえは彼の腕の中に収まってしまう。──ふいに唇は繋がる。

大きく眼を見開いたなまえに、リーマスは満足そうにほくそ笑んだ。どんどん顔が真っ赤になっていくなまえを愛おしく思うと、もう一度繋げた侭の左手と右手をぎゅっと力強く握って、帰ろう、問いかけた。


「ん、」


ゆっくり頷いて、幸せそうにつないだ手を降るなまえに微笑みをもたげて、リーマスは歩き出す。そして、ちらと彼女の手の先をみた。───暖かな桃色だったのだ。彼は心躍った。



彼女の指先は、やはり桃色が一番美しい。


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