しゃり、しゃり。
ほとんど溶けている雪の上を、わざと歩く。溶けかけの雪はべちょべちょしていて好きじゃないけど、朝は固まっていて滑りそうなくらいだ。この感覚は好き。
両手を広げてバランスをとりながら歩いていると、ふいに腕を掴まれて思わず大きな声を出してしまった。誰、こけそうになったじゃないか。


「何してるんだお前は」
「赤司」


呆れた風に笑う、我が部の主将さんがそこにいた。ぴしっと背筋を伸ばして敬礼する。今度は真顔でやめろと言われた。
なんでよ、ちょっとした余興じゃないか、付き合えよ。
ぶーくれて歩き出せば、「お前の馬鹿には付き合いきれないよ」とまた表情を崩した赤司。
入学したての頃はあたしとそんなに変わらないくらいの背だったのに、今ではもうあたしが見上げる形になってしまっている。
そのことが悔しくて、ふいっと視線を逸らした。

当たり前のように隣に並んで歩き始めた赤司は、ゆっくりなあたしのペースに合わせながらくすりと笑った。今日は機嫌がいいね、主将さん。


「初めてお前に会った日のことを思い出していただけだよ。今ではつむじがよく見える」
「・・・ぐうぅー・・・!」
「小さくなったか?」
「・・・赤司がでかくなったんじゃい」


わざと言ってる。こいつわざと言ってる。
帝光のバスケ部マネージャーを志望して合格して一軍で働こうとしたとき、赤司の姿を見たときそれはもう馬鹿にした。近所に住む虹村さんに止められなかったら今頃あたしはここにいなかっただろう。もちろん赤司の手によって殺されてた危険性が高いからだ。
バスケに身長は関係ないんだなぁ。毎日遅くまで残って練習する赤司たちを眺めながら思ったことだ。
最近一軍入りした黒子を見てから、さらにその思いは強くなった。


「・・・俺にあんなことを言えたのは、後にも先にもお前だけだと思うよ」
「基本人を馬鹿にするからね、あたし」
「人としてほめられたものではないな」
「よく言われる」
「それでも、」
「・・・?」


立ち止まった赤司の頬に、雫がつたう。
え、なに、泣いてんの?驚いて顔を覗き込めば、赤司は空を見上げた。


「・・・まだ降るのか。もういい加減冬は飽きたよ」
「赤司が泣いたのかと思った・・・」
「泣くわけないだろう。ましてやお前の前で泣けるか」
「ちょっとそれどういう意味。わかんないよ?もしかしたら試合で負けちゃうかもしんないし、そのときに泣いちゃうかも」
「俺が負けることを想像できるのか、大した頭だな」


お前も大した自信だな。
呆れてため息をつけば、赤司はあたしの手をとって歩き始めた。さっきよりも速いペースだ。


「行くぞ。風邪を引かれては困る」
「わっ、ちょ・・・さっき何言いかけたの?」
「・・・・別に、気にしなくてもいい。くだらないことだよ」
「えー」


気になるなあ。
いつの間にか広くなった背中を見ながら、繋がれた手に視線を落とす。
季節は冬。だけど暦の上ではもう春だといつか赤司が言ってたっけなぁ。

ほわ、
温かくなった手と気持ち。口角を上げて思いっきりその背中にタックルをかませば、冷たい視線。痛いほどに手を握られてあたしが根を上げるまで、あと。

芽生えにはまだ遠くてあどけない
それでも、お前は俺にとって大切な存在なのだ

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